研究課題/領域番号 |
22K14992
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
伊藤 晴倫 山口大学, 共同獣医学部, 助教 (70827526)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell: MSC) の多分化能維持機構にアルデヒド脱水素酵素 (Aldehyde dehydrogenase: ALDH) 活性が与える影響を解明することを目的としている。本年度は、ALDH活性阻害薬として報告されているDyclonineをマウスMSC由来細胞株であるKUM10とC3H10T1/2に処置し、ALDH活性測定と骨分化能について検討した。いずれの細胞株においてもDyclonine処置濃度依存的にALDH活性の低下が認められたほか、Dyclonine処置による骨分化能の低下が認められた。一方で、KUM10とC3H10T1/2はいずれも継代を重ねるとALDH活性が失われていく傾向が認められた。しかしながら同一の条件下におけるDyclonineによる骨分化能の抑制効果には影響は認められなかった。そこで、複数のイヌ乳腺腫瘍由来細胞株に対してDyclonineを処置し、ALDH活性を含めた性状の変化に与える影響について解析した。ALDH活性はがん幹細胞を含めた幹細胞マーカーとして知られており、研究代表者らによる過去の研究などにより、イヌの腫瘍由来細胞株においてもALDH活性が認められることに加え、ALDH活性陽性細胞はがん幹細胞の形質を有していることが示されている。結果として、イヌ乳腺腫瘍由来細胞株にDyclonineの処置を行うと、ALDH活性の顕著な抑制が認められた。一方で、ALDH活性抑制レベルでのDyclonine濃度では細胞増殖率や抗がん剤、酸化ストレス耐性などに対する影響は認められなかった。しかしながら、コロニー形成能の顕著な低下が認められたことから、ALDH活性はイヌ乳腺腫瘍由来細胞株における細胞接着に重要な役割を有している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウス由来MSC細胞株におけるALDH活性は培養条件に依存しており、一定ではない可能性が示唆された。研究代表者らによる結果では、同一条件におけるマウス脂肪由来初代培養MSCにおいては少なくとも4継代まではALDH活性を維持していたが、長期継代におけるALDH活性の推移に関しては検討しておらず、株化細胞における培養条件の変化に伴うALDH活性の低下機構については今後の検討課題である。一方で、Dyclonineが細胞株の性状に与える影響について検討するために、研究代表者らなどによってALDH活性が認められることが明らかになっているイヌ乳腺腫瘍由来細胞株を用いて解析を行なった。イヌ腫瘍由来細胞株においてDyclonineによってALDH活性が抑制されるという結果は初めてであり、新たな知見を得ることができた。一方で、MSCの骨分化誘導時におけるALDH活性の変動を明らかにするためにRT-PCRによってALDHの発現を検討する予定であったが、本研究室で所有している機器に故障が認められたことで、進行が滞っている。
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今後の研究の推進方策 |
ALDH活性がMSCの接着に与える影響について解析する。すでに入手済みである複数のALDH活性阻害薬について比較検討し、細胞接着に最も影響しているALDHアイソザイムを絞り込む予定である。さらに、ALDH活性が骨分化能へ与える影響についても検討予定である。現在用いているALDH活性測定系はフローサイトメトリー法を用いた測定系であり、骨分化誘導時のALDH活性の変化の測定は困難である。そこで、阻害薬によりALDHアイソザイムを絞り込むことができた場合には、RT-PCR法やウエスタンブロッティング法による検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
MSC由来細胞株におけるALDH活性は一定ではなく、培養条件や継代によって変化することが示唆されたため、2023年度はその条件検討を必要とした。結果として、本来予定していた複数のALDH阻害薬による骨分化誘導能の抑制の検討や、ALDHアイソザイムの抑制に用いる予定であった試薬類を必要としなかったほか、本研究室で所有しているイヌ乳腺腫瘍由来細胞株を用いたため、当初の予算を下回った。次年度についてはALDH活性が細胞接着に与える影響について、MSCとがん細胞株の両方で検討していく予定であり、適切な細胞株の購入やがん幹細胞マーカーに関連する抗体の購入を予定している。また、本研究室で所有しているRT-PCRに用いる機器の故障があったため、必要であれば修理を検討している。
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