研究課題
吸血を介して様々な病原体を媒介するマダニが吸血時に分泌する唾液には生化学的多様性に富んだ生理活性物質、すなわち唾液物質が含まれており、一部の抗炎症性物質がマダニ媒介感染症(tick-borne disease: TBD)の病原体媒介効率を促進させているという知見が報告され[Manning and Cantaert, 2019]、TBD予防医学における新たな創薬標的として注目されている。先行研究では当研究室が有する単為生殖系フタトゲチマダニ岡山株の唾液腺にて発現しているmRNAのEST databaseを対象とした抗炎症性物質探索を実施しており、当該研究において多種マダニの抗炎症性物質を検索配列としたBLASTn解析においてHlSG-g22様遺伝子を同定し、逆遺伝学的解析の結果、1)当該遺伝子をノックダウン(knockdown: KD)するとフタトゲチマダニの吸血が進行しないこと、2)当該遺伝子KDマダニ吸血部位では血管内皮細胞のVE-cadherinが濃染させること、3)対照群と比較して実験群では吸血部位に集積したT細胞数が優位に多いことを明らかにしている。加えて当該遺伝子ORFアミノ酸配列を用いてSWISS-MODELを用いた立体構造類似性検索を実施したところ多種マダニより報告されたケモカイン結合タンパク質であるEvasin-3と部分的に高次構造上確度の高い分子モデルが予測された。そこでAlphaFold2にて予測された当該遺伝子の立体構造に対し、Evasin-3にて結合性が報告されているCXCL1に対するタンパク質ータンパク質ドッキングシミュレーションを実施した。するとCXCL1の受容体結合部位に対して結合するドッキングポーズをトップヒットとした。今後、予測された結果をもとにin vitroにおける解析を実施することで当該遺伝子が有するケモカイン結合性を明らかにしたい。
2: おおむね順調に進展している
本研究は段階的に研究が遂行され、HLSG-g22様分子のマダニ刺咬部位での役割が明かになりつつある。特に当該遺伝子と高次構造上の類似性を有するタンパク質が有するケモカインに対して計算化学的手法を用いて分子特性を解析したところ同様の機能を有する可能性が示唆された。今後計算化学的手法を用いて当該遺伝子の更なる分子特性を解析するとともにin vitroにおける解析を進めたい。
HlSG-g22様分子が有するであろう抗炎症性作用を評価するために下記の研究を予定している。なお、進行状況に応じて前後する可能性もある。1)計算化学的手法を用いたHlSG-g22様分子の機能予測:先述のAlphaFold2にて予測された立体構造情報を用いて分子特性を解析するとともに、計算された当該遺伝子とCXCL1間の分子間相互作用を明らかにすることで両分子間の結合特性を評価したい。また、ヒトおよびマウスにおける各種ケモカインの立体構造情報を取得し、立体構造情報データベースを構築することで多種ケモカインに対する結合性も評価したい。2)培養細胞を用いたケモカイン阻害作用の評価:先述の血管内皮細胞におけるVE-cadherin発現抑制調節およびT細胞遊走抑制機能について、培養細胞を用いた分子生物学的機序の解析を行う。具体的にはHlSG-g22様分子の組み換えタンパク質を作製し、血管内皮細胞およびT細胞の培養細胞に対し、ケモカイン単独刺激群・HlSG-g22様分子共刺激群を作製し、VE-cadherin発現量もしくはT細胞の走化性を評価し、比較解析を実施する予定である。
2023年度納品予定であった試薬が物流および輸入状況により4月納品となってしまったため会計上差額が生じた。当該キットはすでに納品済みであり研究計画に何ら影響はない。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件)
Advances in Parasitology
巻: 2023 ページ: 87~136
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Scientific Reports
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Parasitology International
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