研究課題/領域番号 |
22K15022
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
船屋 智史 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (80939687)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | リンカーヒストン変異体 / マウス初期胚 |
研究実績の概要 |
マウスでは受精後の1から2細胞期において遺伝子発現は大きく変化しており、これは遺伝子発現のプログラムに従って変化するものと考えられている。しかしながらこの遺伝子発現変化を制御する機構に関しては未だ不明な点が多い。クロマチン構造は遺伝子発現調節に重要であることが報告されており、遺伝子発現と同様受精後の1から2細胞期の間に大きく変化している。リンカーヒストン変異体はクロマチン構造の形成に関与しており、申請者のこれまでの先行研究よりリンカーヒストン変異体H1fooはマウス受精後の1から2細胞期におけるクロマチン構造変化に関与することを明らかにしている。本研究ではこのH1foo、さらに別のリンカーヒストン変異体であるH1aにも着目し、これらリンカーヒストン変異体が受精後のクロマチン構造、および遺伝子発現変化に関与するかどうか解析を行なった。まず既に作成されているH1aのノックアウト(KO)マウスを用いてH1aのKOがマウスの発生に与える影響に関して調べた。その結果H1aのホモKOマウスは野生型のマウスと同様正常に発生し、産子が得られた。次に得られたH1aのノックアウトマウスを用いて雌雄それぞれの妊性に与える影響について解析を行なったところ、H1aのホモKO雌マウスを用いた交配において産子数の減少が見られた。H1aのKOは雌の妊性に影響を与えていたことから、次にH1aのKOが初期発生に与える影響を調べた。その結果H1aホモKOの雌マウスから得られた卵を使用した初期胚は桑実期から胚盤胞期にかけて発生率が大きく減少していた。これらのことからH1aは雌の妊性及び初期発生に重要であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H1aのノックアウト(KO)が初期発生へ与える影響についての解析は概ね完了した。予想に反してH1fooと比較してH1aのKOは雌の妊性及び初期発生に影響を与えており、H1aは桑実期から胚盤胞期にかけての発生に重要であることが明らかになった。しかしながらH1aホモKOの雌マウスから得られた卵を使用した胚では、クロマチン構造及び遺伝子発現が大きく変化している1、2細胞期の発生には影響は見られなかった。そこで次にH1aとH1fooの両欠損を行うためにH1aホモKOの雌マウスから卵を採取し、H1fooのsiRNAを顕微注入しノックダウンを行なった。しかしながら顕微注入を行なった胚はコントロールsiRNA及びH1fooノックダウン両方の群において1細胞期で発生を停止してしまっており、それ以降の解析が困難であった。使用したマウスの系統は純系であったため、顕微注入に耐性がなかったことが考えられる。そこで現在は交雑系のH1aKOマウスを作成しており今後はこのマウスを用いてH1aとH1fooの両欠損実験を行う予定である。またクロマチン構造解析の手法であるHi-Cについては研究室で初期胚を用いた実験系の立ち上げに成功しており、これらH1aとH1foo両欠損した初期胚において解析を行う準備はできている。
|
今後の研究の推進方策 |
H1aホモKOの雌マウスから得た卵にH1fooのsiRNAを顕微注入し、H1a及びH1fooの両欠損を行う。これらH1aとH1fooの両欠損が初期発生に与える影響を調べる。さらにH1aとH1fooの両欠損した胚において初期発生に大きく影響が見られた場合に、これら初期胚においてRNA-seqを用いて遺伝子発現解析、Hi-Cなどの手法を用いてクロマチン構造解析を行う。
|