卵巣ステロイドホルモンであるエストラジオール17βやプロジェステロンは、排卵周期の進行や妊娠に伴い分泌動態が変化し、それによって生殖器官の機能を調節することがよく知られている。これらのホルモンは、子宮内膜や卵管においては組織リモデリングにも役割を果たすことが知られ、このプロセスは受精や胎子の発育に最適な環境を提供するために必須のものである。それではこれら卵巣ステロイドホルモンは、非生殖器官の機能には影響を及ぼすであろうか。本研究プロジェクトでは、妊娠期の皮膚リモデリングに光を当てた。妊娠時において、胎子の成長によって腹部に張力がかかり、皮膚組織が押し広げられる。この際に皮膚表皮は、細胞自体が伸びているわけではなく、毛包間表皮に KRT14+/TBX3+細胞を起点とした細胞増殖クラスターを形成することで皮膚の表面積を増加させることが近年の研究により明らかとなった。昨年度までに、妊娠期において、これまでに定義されたことのない細胞群が腹部真皮組織に出現することを明らかにした。またこの細胞群の一部には卵巣ステロイドホルモン受容体が発現すること、ならびに卵巣ステロイドホルモン受容体下流のシグナルが活性化していることが明らかとなった。当該細胞群の体外培養技術についても作出をすることができた。今年度はこの体外培養技術に加え、当該細胞のマーカー遺伝子をドライバーとするCreERT2マウス系統を使用したところ、当該細胞が妊娠時にECMリモデリングに関与することならびにメカノトランスダクションを媒介し、表皮細胞増殖クラスターの出現に寄与できる細胞であることが示唆された。本研究により皮膚は非生殖器官であるにもかかわらず、卵巣ステロイドホルモンの感作を受けてドラスティックな組織リモデリングメカニズムを有する可能性が示された。
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