研究課題/領域番号 |
22K15034
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
幡野 敦 新潟大学, 医歯学系, 助教 (30755533)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クロマチンプロテオミクス / スプライシング |
研究実績の概要 |
本研究ではこれまでの研究により見出したインスリン依存的に起こるスプライシング効率低下を介した成熟mRNA発現抑制機構(遺伝子発現キャンセリング)の実証、分子機構の理解、さらには生理的意義を検証する。昨年度の研究ではChEP-DIA法の実験系を見直し、最適化したことで高深度にクロマチンタンパク質の動態を捉えることに成功した。本年度は最適化したChEP-DIA法を用いてスプライセオソームタンパク質の上流シグナル伝達の探索を行った。インスリンにより活性化される上流キナーゼを複数のキナーゼ阻害剤により阻害し、スプライセオソームタンパク質のクロマチン結合がどのように変化するかを解析した。SRSF1をはじめとしたスプライセオソームタンパク質の一部はAKTの阻害およびmTORの阻害によってクロマチン結合量が変化したことから、スプライシングの変化にAKT-mTOR経路が重要であることが示唆された。これまでの実験から、mTORの下流で活性化されるS6Kはインスリン刺激に対して一過的に応答することが示されており、スプライセオソームタンパク質の複雑な応答の一部はS6Kによって作り出される可能性が考えられた。 スプライセオソームタンパク質の全てのコンポーネントがAKTやmTOR阻害剤に応答しなかったことから、スプライセオソームタンパク質群は複数の複合体によって機能していることが考えられた。そこでスプライセオソームの中心分子の一つであるFLAG-SRSF1を安定発現する細胞を作製し、SRSF1の結合分子の探索とそれら分子の時間依存的な動態変化を解析した。この解析では既知のスプライセオソームタンパク質の結合動態を明らかにすることに成功したほか、これまでSRSF1との結合に関する報告のなかった分子も同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スプライセオソームのクロマチン局在を制御する分子機構を解明し、スプライシング機構を実験的にコントロールすることが、当該研究でかがげる『遺伝子発現キャンセリング』の立証には必要となる。今年度はスプライセオソームの動態を制御する分子の解析を重点的に実施し、関連する分子の同定に至ったものの、スプライセオソームの制御が複雑であるため難航しており、制御を行っている分子の同定には至らなかった。特に、スプライセオソームは複合体としてある程度一貫した制御を受けると想定していたが、阻害剤に対する応答パターンがスプライシングのコンポーネントごとに異なっており、スプライセオソームがどのような分子群に分かれているのかを詳細に理解する必要が出てきている。 本年度は目標としていた『遺伝子発現キャンセリングの制御分子機構の解明』が完了できなかったため、進捗状況区分としては「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究では『遺伝子発現キャンセリングの制御分子機構の解明』がスプライセオソームの一部の分子がAKT-mTOR-S6K経路によって制御を示唆するにとどまった。より詳細な分子機構の解明を行うことが、その後の生理的意義の解明につながるため、スプライセオソームの制御分子の同定を急ぐ。そのために、リン酸化プロテオミクスによりSRSF1をはじめとしたスプライセオソームのリン酸化制御を網羅的に探索する。特にスプライセオソームの上流制御が複数あったことより、リン酸化の網羅的な解析によってスプライセオソームごとの上流キナーゼ(リン酸化プロテオミクスによって得られるリン酸化部位の配列から推定)の違いを明らかとする。また、申請者が昨年度開発した、機能と関連するリン酸化部位の網羅的同定法を本研究プロジェクトでも導入し、スプライシング機能に重要なリン酸化部位の同定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
報告書で示したようにスプライセオソーム制御の分子機構の解明の実験が遅れており、本解析で予定していた一部の実験(特にスプライセオソームタンパク質に対するリン酸化抗体の作製やノックインマウスの準備)の実施至らなかった。これらの解析は引き続き行うため、リン酸化抗体の作製やノックインマウスの費用が掛かる可能性は十分にあると考え持ち越しとした。
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