研究課題/領域番号 |
22K15043
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
迫 洸佑 公益財団法人がん研究会, がん研究所 実験病理部, 研究員 (00838469)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 染色体分配 / Aurora B / INCENP / HP1 / 天然変性領域 / 構造解析 / キネトコア |
研究実績の概要 |
染色体分配時において、分裂期キナーゼのAurora Bを含む染色体パッセンジャー複合体(CPC)はセントロメアに局在し、動原体/微小管の結合異常の補正機能を担っていることが知られている。興味深いことに、Aurora Bは『局在範囲外』の動原体タンパク群を基質とするが、局在範囲外まで活性が届く分子背景は未だに不明である。我々は先行研究で、CPCの活性制御におけるHP1結合の必要性を見出していた。HP1はCPCの足場タンパク質であるINCENPの天然変性領域(IDR)中のPxVxL/I-motif (以下PVI)に結合するため、我々は「HP1結合時にIDR全長が状態変化し、CPCの活性到達範囲を広げる」という作業仮説を立てた。 まず、Aurora B-INCENP組換えタンパク質を用いた先行実験および本年度の研究結果から、1) HP1の結合がINCENPの伸長反応を促進すること、2) その伸長反応にはINCENPのIDRが関与していること、の2つがHigh-Speed (HS) AFMによる液中構造解析から明らかとなった。加えて、細胞内においてこの伸長反応を強制的に阻害した際の表現型を解析するため、ラパマイシン介在型のFKBP/FRBヘテロダイマー形成を利用した屈曲誘導型のINCENP変異体を作製し、その変異体を恒常発現する細胞株の取得を行なった。この細胞に対し、ヘテロダイマー誘導剤を添加したところ、わずかにではあるがセントロメアのAurora B fociが凝縮しているように見えた。このことから、誘導剤を介したFKBP/FRBヘテロダイマー形成によって細胞内でINCENPの伸長反応阻害が起きた可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の先行実験において、大腸菌から精製したAurora B-INCENP組換えタンパク質を用いたHS-AFMによる一分子動態解析を行なっていた。その結果、INCENPは紐状構造で動的な分子動態を示し、最大伸長距離はAurora Bの活性到達範囲に相当することが判明した。加えて、HP1結合時にその伸長反応が促進されることも明らかとなったことから、本年度はINCENP配列中のどの部位が伸長反応に寄与するのかを検討することにした。我々は先行研究から、INCENP側のHP1最小相互作用領域の同定に成功しており、その領域以外の全てのIDRを欠損させたINCENP変異体の組換えタンパク質を作製し、再度HS-AFMによる解析を行ったところ、HP1結合による伸長反応が阻害された。これらの結果から、HP1結合がINCENP-IDRの全体構造を変化させることでCPCの機能制御を行う可能性が示唆された。 次に我々は、細胞内においてもINCENPの伸長反応が重要な役割を持つかを検証するため、この伸長反応を強制的に阻害できる実験系を構築することにした。ラパマイシン介在型のFKBP/FRBヘテロダイマー形成機構を利用した実験系は細胞生物学分野において広く用いられており、これらをそれぞれINCENPのN末端とC末端に付加し、薬剤添加による屈曲誘導が期待できるINCENP変異体を作製した。この変異体を恒常発現する細胞株に対し、ヘテロダイマー誘導剤を添加したところ、コントロールに比べてセントロメアのAurora B fociが僅かに凝縮しているように見え、INCENPの伸長反応阻害によってAurora Bの局在範囲が変化した可能性が示唆された。 上記の結果は、当初の実験計画の約1/3をカバーすることから、おおむね順調に研究が進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を推進するにあたり非常に重要な背景として、Aurora Bの局在範囲と活性到達範囲に乖離があり、その活性制御機構が長年にわたり議論の的となっている点が挙げられる。それを踏まえると、これまでに得られた研究結果は、CPCの空間的活性制御機構を考える上で一つの作業仮説を与える非常に重要な結果であると言え、今後は我々の作業仮説が支持されるか否かをより詳細に検証する必要がある。 特に、ラパマイシン介在型のFKBP/FRBヘテロダイマー付加型INCENPが薬剤添加なしの状態で正常に機能しているかどうかは厳しく判定すると共に、薬剤添加時にも、伸長反応以外のCPC機能が阻害されていないかどうかは十分に検証を重ねていく予定である。
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