研究課題/領域番号 |
22K15048
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
槇野 義輝 神戸大学, 医学研究科, 特命助教 (80822337)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | NMR / Ras蛋白質 / 構造生命科学 / 創薬科学 / SACLA/SPring-8 |
研究実績の概要 |
がん遺伝子産物RASは低分子量G蛋白質であり、細胞内においてGTP結合型(活性型)とGDP結合型(不活性型)を相互変換しながら、標的分子の結合・解離を介して、細胞の増殖、分化、細胞死などの細胞内シグナル伝達を制御している。 本研究では、RASのGTP加水分解反応機構、すなわち不活化メカニズムに着目をし、光制御可能なcagedGTP並びに光スイッチング可能なフォトクロミックGTPを駆使し、GTP加水分解過程で生じるアロステリックな構造変化と活性制御メカニズムをNMR分光法、時分割X線結晶構造解析等を用いて原子分解能レベルで解明することを目的としている。 2022年度においてはNPE-cagedGTP/RASを用いた時分割X線結晶構造解析の結果からGTP加水分解反応におけるアミノ酸残基の運動性をトレースすることで、その構造伝播はα3/α4ヘリックスの構造変化がトリガーであることが明らかとなった。加えて15N/13C HSQC NMRスペクトルの経時変化をトレースし、その詳細な速度論解析を実施した。その結果GTP加水分解反応はGTP結合領域であるポケット領域において、ポケットが開いたState1からポケットの閉じたState2を経てGDP型へと至る逐次反応であり、GTP加水分解反応の開始からおよそ40min.でState2の割合が極大となり、且つState2の崩壊速度が速く、NMR並びに時分割X線結晶構造解析では補足困難であることが示唆された。 そこで、本研究課題の目的の一つであるフォトクロミックGTPの活用の重要性を再認識するに至り、アゾベンゼン結合GTPの合成を外注にて実施し、合成経路を確立した。現在当該GTPをインサートしたRASを用いたNMR測定等を実施し、その光反応性を検証している最中にあり、次年度以降State2を経由するRASの不活化メカニズムの詳細を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度においては、NPE-cagedGTP/RASを用いた時分割X線結晶構造解析及びNMR測定によって、RASのGTP加水分解反応に係る蛋白質の構造変化はGTP結合領域から空間的に離れたアロステリック領域であるα3/α4ヘリックスの構造変化をトリガーとして分子内の構造伝播によって生じること、並びにその速度論についてはState1-> State2 -> GDP型への逐次反応であることを解明するに至った。加えて、State2の崩壊速度が速く既存のcagedGTPでは補足不可能であることを示唆する結果を得ている。そこで、当初計画に従ってState1型とState2型を光スイッチングによって切り替えることを可能にし、State2を経由するGTP加水分解反応パスウェイの詳細を明らかにするためのアゾベンゼンを付与したフォトクロミックGTP結合RASの作成を試みた。当該フォトクロミックGTPの合成はこれまでの本研究に付随する知見をもとに外注にて成功しており、現在フォトクロミックGTPをRASへインサートし、その光反応性等についてのNMR測定等を実施、解析を行っている。 上記理由により本研究課題は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度までの研究において、cagedGTP結合RASの光照射後のGTP加水分解反応のNMR分光法及び時分割X線結晶構造解析から、アロステックな構造伝播がGTPの加水分解反応、すなわちRASの不活化促進に関与していることを示唆する結果を得ている。RASの不活化メカニズムに関わる反応速度論解析、並びにキーとなるアロステリック領域の構造変化の解析は概ね完了しているが、Satet2を経由するGTP加水分解スキームの補足には新たなGTPアナログ(cagedGTP並びにフォトクロミックGTP)の活用が必要である。 本研究の最終目標の1つであるRASの活性を光制御することを達成するためにも、本年度に合成が完了し、現在NMRデータを取得・解析中のフォトクロミック型アゾベンゼンGTP・RASの光反応性並びに構造状態の光制御のNMRによる補足を、高磁場NMR等を効果的に活用することで研究を推進する。 また、各種測定並びに解析においては適宜、選択的アミノ酸標識RASサンプルを大腸菌発現系並びに無細胞発現系を用いて調整し、GTP結合領域のみならずアロステリ領域の特定アミノ酸残基の構造情報を収集し、時分割X線結晶構造解析等の実験と協奏することで、詳細なRASの不活化メカニズム解明に向けた研究を加速させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において、一般実験試薬等については研究室での共同使用のために一部減額が生じた。また、フォトクロミックGTPの合成等について当該年度で合成経路の確立等の一定の進捗がみられたことから、2023年度においては、これらフォトクロミック分子結合RASのNMR測定のための経費等の支出を計画している。
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