低分子量G蛋白質RASは、細胞内においてGTP(活性型)/GDP(不活性型)結合サイクルを介して、標的分子との結合/解離が調節し、細胞の増殖等の細胞内シグナル伝達を制御している。本研究では、GTP加水分解反応、すなわち不活化機構に着目し、光制御可能なcagedGTPを用い、その構造パスウェイをNMRによる速度論解析、X線結晶構造解析等により解明することを目的として研究を実施した。併せて、GTP分解酵素活性化蛋白質であるGAP存在下/非存在下でのGTP加水分解速度についてcagedGTP・RASを用いた溶液NMRによる速度論解析を実施し、その不活化機構の解明を試みた。 2022年度は、cagedGTP/RASを用いた時分割X線結晶構造解析、及び光照射後のNMRスペクトルの経時変化のトレースによる応速度論解析を実施し、GTP加水分解反応に係る構造変化はGTP結合領域のみならず隣接領域でも生じており、その速度論はState2と呼ばれるGTP結合領域の閉じた状態の時間占有率が極めて小さいことを示唆する結果を得た。 2023年度は、これまでに得られたデータを詳細に解析するとともに、微結晶試料を用いた固体NMRによる速度論データを解析し、構造及び速度論的にState2の時間占有率が極めて小さい、若しくは見かけ上State2を経ないで不活化が進行する系の存在を示唆するデータを得た。この結果は当該年度に実施した、RAS変異体、並びにGAP存在下/非存在下でのNMRによる速度論解析のデータによっても示唆され、RASの不活化メカニズムの解明の一端を解明するに至った。 さらなる不活化メカニズムの解明については、フォトクロミックRASを用いた活性構造の人工的な制御が必要であると考えるが、当該年度においてはその極大吸収波長の測定等に留まっており、今後は光照射下での各種分光測定法の確立等が課題である。
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