研究実績の概要 |
時計タンパク質KaiCは、N末端ドメイン(C1)においてATPを加水分解(ATPase)し、時計システムのペースを規定する。C末端ドメイン(C2)ではリン酸化/脱リン酸化が繰り返されて振幅の大きな波形を生み出す。KaiA, KaiB, KaiCを試験管内で混合すると、KaiCのATPase活性・リン酸化状態が約24時間周期で振動する。 KaiCはS431、T432を自己リン酸化する。「夜」の位相で自己リン酸化したKaiC(KaiC-pST: SはS431, TはT432, pはリン酸化を示す)は、「夜明け」において脱リン酸化し(KaiC-ST)、「朝」に新しいサイクルを開始する(KaiC-SpT)。脱リン酸化からリン酸化へ転じるメカニズムを明らかにするため、S431, T432に変異導入して夜明けのKaiの構造と機能を調査した。X線結晶構造解析・生化学実験によってC2のリン酸化部位周辺、C1-C2界面、C1-ATPase活性部位の構造と機能を明らかにした。KaiCは「夜明け」において、C1-C2両ドメインをアロステリックに協働させることによって、「夜」「朝」の切替を行っていた。 ここで述べたリン酸化部位のうち、KaiC-STは自律的にT432を優先してリン酸化する。この反応はATPとT432側鎖の水酸基のあいだで進行すると考えられるが、そのメカニズムはこれまで明らかではなかった。Quantum Mechanics/ Molecular Mechanics(QM/MM)法によってT432リン酸化反応を可視化し、T432水酸基からプロトンを引き抜く一般塩基を特定した。また生化学実験を通して、一般塩基の触媒能を間接的に調節する部位を明らかにした。これによってはじめてKaiCの詳細な自己リン酸化メカニズムが提唱できた。
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