狙いの細胞内オルガネラ空間に対して選択的なクリックケミストリー反応によるリン脂質ホスファチジルコリン(PC)への蛍光標識、およびフローサイトメトリーによる1細胞分解能での局所的なPCの蛍光標識量のハイスループット解析を検討してきた。最終的に、小胞体・ゴルジ体、ミトコンドリア、形質膜の3つの膜PCを標的にするプール型CRISPRスクリーニングへの展開を実証した(土谷、Cell Metabolism、2023)。研究の過程で、この手法は生細胞での利用に制限されるという課題が判明し、細胞内免疫化学的手法に適用するために、本手法と細胞固定・膜透過処理との併用を検討した。架橋剤パラホルムアルデヒトPFA処理を行っても蛍光標識PCは細胞内に残存したが、界面活性剤トリトンX-100処理により蛍光標識PCは細胞から除去された。そこで、別の界面活性剤としてサポニンを検討したところ、蛍光標識PCは残存することが分かった。この条件において、細胞内の抗原物質に対する抗体標識との併用が可能であった。すなわち、リン脂質PCの細胞内代謝動態解析と同時に、細胞内免疫染色によるマーカー発現解析を行うことが可能となり、より多数の標的生体分子を関連付けて評価する手法を構築できた。とくに、タンパク質の新規合成活性をモニターするピューロマイシン代謝標識法と組み合わせることで、PC合成とタンパク質合成を1細胞レベルで同時評価できる初めての方法を構築した。
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