研究課題/領域番号 |
22K15067
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
野村 高志 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (40753645)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | アミロイド / 赤外分光法 / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、アミロイドの脱凝集過程におけるタンパク質の動きを分子レベルで可視化し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。その為、本研究の基盤となる①酵母由来Sup35アミロイドの構造決定、②時間分解赤外分光測定および時間分解クライオ電子顕微鏡単粒子解析に最適な脱凝集反応条件の決定、③時間分解赤外分光測定のための高速混合マイクロフローセルの開発に注力した。 Sup35は2種類のアミロイド(Sc4、Sc37)を形成する。クライオ電子顕微鏡実験では均一な試料を調製する事が必須である。サンプルの調製方法を改良することで均一な試料を調製できていることを質量分析で確認できたので、クライオ電子顕微鏡で観測したところ、両アミロイドの構造を高分解能で決定した。この2種類のアミロイドの構造は大きく異なっており、全反射照明顕微鏡で明らかとなっていた脱凝集反応の違いを説明しうる重要な知見を得る事ができた。 また、時間分解赤外分光測定およびクライオ電子顕微鏡による時間分解構造解析に向けた脱凝集反応条件の最適化のために、チオフラビンTによる脱凝集アッセイを行なった。これにより本研究で最適な反応条件を決定する事ができた。しかし、この条件でSup35アミロイド/Ssa1/Sis1複合体を調製し、クライオ電子顕微鏡で観測したが、余剰のシャペロンがクライオ電子顕微鏡画像のコントラストを低下させてしまい、構造決定には至らなかった。 時間分解赤外分光測定については、アミロイドの脱凝集反応を実時間で追跡するために、高速混合マイクロフローセルを開発した。このセルを利用して時間分解赤外分光測定により脱凝集反応を観測したところ、シャペロンの構造変化に由来するタンパク質の構造変化を捉える事ができたが、アミロイドの構造変化を捉えることはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究において最も重要であるSup35の立体構造を決定することに成功した。これにより、タンパク質構造からアミロイド脱凝集反応の分子メカニズムを明らかにする基盤情報が揃ったと言える。 また、時間分解赤外分光測定およびクライオ電子顕微鏡による時間分解構造解析に合わせた脱凝集反応条件を決定出来たので、今後は測定技術面の改善に集中できる様になった。 クライオ電子顕微鏡観測によるアミロイド/シャペロン複合体の構造決定には至らなかったが、最適な脱凝集反応条件であっても余剰なシャペロンが存在していることが早期に明らかになった点では大きな進展であると言える。また、時間分解赤外分光測定においても、Sup35アミロイド/Ssa1/Sis1複合体の観測には至らなかったものの、アミロイド結合前にシャペロンが構造変化を起こしている発見は全反射照明蛍光顕微鏡では捉える事が出来なかった現象であり大きな進展であると言える。この事は当初提案されていた反応メカニズムよりもより多くのステップが存在している可能性を示唆しており、今後の実験方針を決定するための重要な情報となった。 以上のことから、本研究における基盤情報が揃っただけでなく、時間分解構造解析における問題点を早期に洗い出せたことから、現時点では当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
Sup35が形成するアミロイドは温度によって大きく形を変える。この詳細なメカニズムを明らかにするためにSup35の変異体を調製する。クライオ電子顕微鏡により決定した構造から、アミロイド形成において重要な役割を果たすであろう部位は特定できたので、その周辺の電荷や極性を変化させて、例えば「Sc4を形成しない変異体」等を調製し、その原理を説明する。 Sup35アミロイド/Ssa1/Sis1複合体は赤外分光測定によりアミロイドが部分的な構造変化を示す事が明らかになっており、さらにHsp104を加える事で速やかに脱凝集反応が起こることから、生理的に意味のある複合体であると考えられる。そのため、試料そのものの調製条件は変更する必要がなく、クライオ電子顕微鏡観察のためのグリッド調製条件を見直すべきであると考えられる。現時点での方針は、遠心によりSup35アミロイド/Ssa1/Sis1複合体を沈殿させ、上清を除くことで余剰のシャペロンを除去し、シャペロンを含まない緩衝液で洗浄する方法を考えている。この方法で得られた複合体がHsp104の添加により脱凝集反応が進行するかをチオフラビンTによる脱凝集アッセイで確認するとともに、赤外分光測定によりアミロイドの構造変化を維持しているかを確認する。 時間分解赤外分光測定についてアミロイドの脱凝集反応は当初の想定よりも時間がかかり、より多くのステップが存在する事が明らかとなった。そのため、脱凝集反応全体を観測するのではなく、各ステップごとの反応を追跡する方針に切り替える。そのために高速混合マイクロフローセルの改良を行う。現在使用しているセルは小分子(本研究ではATP)の混合を反応トリガーとするために最適化されている。つまり、シャペロンの様な大きな分子を混合することには不適である。今後、大きな分子を混合できる新しい高速混合マイクロフローセルの開発を行う。
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