研究課題/領域番号 |
22K15068
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
趙 慶慈 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (60907682)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | in-cell NMR / 核磁気共鳴法 / 翻訳後修飾 / シグナル伝達 / 低分子量GTPase |
研究実績の概要 |
RASタンパク質は細胞内で翻訳後、脂質修飾により細胞膜に局在することで、細胞外刺激に応じて細胞増殖などに関わるシグナル伝達経路を活性化する分子スイッチであり、がん創薬の重要な標的分子である。本研究ではin-cell NMR法(細胞内NMR法)を用いて生きた細胞膜上に局在したRASの構造状態をリアルタイムで解析することにより上流刺激によるRASの活性化を定量的に捉えるとともに、RASの活性化に関与する細胞内の相互作用を明らかにすることを目指す。 本年度は脂質修飾に必要なC末端部を含む全長RAS(KRAS4B)を大腸菌発現系で調製し、調製したRASが脂質修飾酵素FTaseによって脂質修飾が進行することを質量分析によって確認した。次にGFPと融合させたRASを調製し、SLO法によって細胞内に導入すると、脂質修飾部位(C185)依存的に細胞膜へ経時的に局在していくことが共焦点レーザー顕微鏡によって観測した。 次に安定同位体標識RASをSLO法により細胞内に導入してNMRサンプル管に封入後バイオリアクターシステムにより培地を灌流しながらin-cell NMR測定により細胞内RASのNMRスペクトルを連続的に取得した。その結果、細胞内RASのIle由来のNMRシグナル強度が測定直後から経時的な減少を示し、細胞内に導入したRASが内在性の脂質修飾酵素によってを修飾を受けることによって細胞膜との相互作用が経時的に増大していることが示唆された。 今後は、フッ素原子の導入やパルスシーケンスの改良などよりシグナル感度を向上することでin-cell NMR測定の時間分解能の向上させることを検討するとともに、RAS活性型割合の経時変化からシグナル伝達を介したRASの活性化の観測、各種シグナル伝達阻害剤の効果を定量的に評価する手法の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸菌発現系を用いて調製したリコンビナントの全長RASについて、RASと脂質を修飾酵素FTaseにより反応させ、質量分析法などにより脂質修飾に伴う性状の変化を解析した結果、同位体標識RASもFTaseにより脂質修飾を受けることを確認した。さらに細胞外から導入したRASが細胞内で膜に局在するかを明らかにするため、蛍光タンパク質GFPを融合させたRASを細胞外から導入し、共焦点顕微鏡により細胞内の蛍光の分布を観察した結果、脂質修飾部位(C185)依存的に経時的に細胞膜へ局在することを確認した。次にIleの側鎖δ位を選択的に13C標識したRASを細胞内に導入し、NMRサンプル管に封入後、所属研究室のバイオリアクターシステムにより培地を灌流しながら連続的なin-cell NMR測定を行った。その結果、Ile142を始めとするRASのIle側鎖由来の細胞内NMRシグナルが観測された一方で、それらのシグナル強度は経時的に減少し、膜との相互作用によるRASの運動性の低下が示唆された。また、測定後の細胞について導入したRASを抽出し、疎水性相互作用クロマトグラフィーを行った結果、疎水性の増大していたことから、RASが導入後に翻訳後修飾を受けていることを確認した。 in-cell NMR測定において当初想定されたような膜局在によるNMRシグナルの完全な消失は見られなかったことから、細胞内で脂質修飾されたRASが膜に結合した状態と膜から解離した状態が交換しており、細胞内NMRシグナルとしては膜から解離した状態を主に観測していると考察した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として、細胞膜との相互作用によりNMRシグナル強度が低下しても、RASの活性型割合変化を高い時間分解能で観測するために、フッ素原子の導入や特定領域のみシグナルのみを検出するような1次元測定パルスシーケンスの改良などを検討する。そして、GDP結合型とGTP結合型で異なる化学シフト変化を示すIle21のシグナル強度比から算出されるRAS活性型割合を追跡し、シグナル伝達を介したRASの活性化をリアルタイム観測する。さらに、この手法を発展させて、各種シグナル伝達阻害剤を灌流する培地に添加することで阻害剤の効果を定量的に評価する手法の確立を目指す。
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備考 |
https://researchmap.jp/qingcizhao
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