研究課題/領域番号 |
22K15069
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
姫岡 優介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70903160)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 代謝 / 動力学モデル / 微分方程式 |
研究実績の概要 |
冬眠能力を持つ動物以外の生物に冬眠能力を付与する研究、人工冬眠研究が近年注目を浴びている。 冬眠状態にある生物の組織は代謝活性が低く、また体温も非常に低い状態にある。化学反応系という、温度によって大きく影響を受けるシステムである細胞が、どのようにして低体温・低代謝状態へと安全に遷移し、そしてまた活動再開ができるのかを詳細に理解することは、人工冬眠研究の発展において重要な課題であるといえる。 本研究においては、そのような課題を理解する第一歩として「低温環境において代謝ダイナミクスはどのような影響を受けるのか」を明らかにするために、最も詳細なモデリングがなされている大腸菌の中心代謝経路動力学モデルを用いて解析を行った。 温度の変化が代謝反応に与える影響は大きく分けて2つ存在する。ひとつは酵素の最大反応速度定数といった速度論的変化であり、他方は反応の可逆性といった熱力学的要素の変化である。最大反応速度定数の変化自体は遺伝子発現レベルの変化によって打ち消すことができるため、本研究では反応可逆性の変化の影響のみに着目して解析を行った。具体的には、さまざまな温度環境下において代謝の微分方程式モデルをさまざまな初期値から数値積分し、そのダイナミクスを観察した。 数値解析の結果、至適温度(37℃)ではどのような初期値から数値計算を開始しても代謝系は順調に細胞体の合成を行えることが明らかになった。しかし温度が下がるにつれ、徐々に代謝状態のバランスを崩してしまうような解軌道が確認されるようになった。そのような解軌道においては、いくつかの代謝物質の濃度が極端に低くなり、その一方で別の代謝物質の濃度は際限なく蓄積していく様子が観察された。温度低下によるダイナミクスの質的な変化が、代謝反応系におけるどのような反応に起因するのかを理解するために、現在解析を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
とりわけ支障なく研究が執り行えたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は低温における代謝ネットワークダイナミクスの全体的な解析、そのネットワーク構造と「耐えられる温度の下限」の研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
多忙であったため、予定していた学会参加の申し込みを行わなかったことによる。繰越分は2024年度の学会参加で使用予定である。
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