氷結晶結合タンパク質(IBP)は、低温環境に生息する生物が生産する生体保護物質である。IBPは生体内外で発生した氷結晶に結合して、その成長を抑制する。更にIBPは哺乳類細胞にも結合し、低温でそれらを保護する非凍結細胞保護機能を有する事も知られている。しかし、後者の分子レベルのメカニズムについては、ほとんど調べられていない。本研究では、IBPがどのように細胞を保護しているのかを分子レベルで明らかにすることを目的とし、そのために、多数のIBPおよびその変異体を用いた細胞保護実験を行った。 魚や昆虫や菌類の様々なIBPを発現・精製し、それらが全て細胞を保護することを明らかにした。これらのIBPは構造が大きく異なるため、それらの共通部位である氷結晶結合部位が細胞保護機能に関与していると考えられた。この仮説を検証するために、氷結晶結合部位にアミノ酸変位を導入し、それらの細胞保護効果を比較した結果、わずか1アミノ酸の変異で大きく活性が変化することが明らかになった。すなわち、氷結晶結合部位が細胞吸着に関与することが間接的にではあるが示された。更に、IBPが低温において細胞に不可逆的に吸着することを実験的に証明した。これらの結果より、IBPは氷結晶結合部位を用いて細胞に強く結合することで細胞を保護していると考えられる。これらの結果をまとめ、責任著者として論文発表した。これらの結果は、細胞の低温耐性機構獲得の解明に大きく貢献する発見だと考えられる。今後は、IBPが細胞のどの部位に結合しているのかを明らかにする必要がある。 また、IBPがリガンドに結合する際に重要だと考えられている分子表面の水和状態を、時分割X線回折を応用して調べる手法を考案し、国際学会(PCI2023)にて発表を行った。
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