真核生物の繊毛内には、特殊な構造の微小管構造が見られる。細胞質内には通常、一本の筒状のシングレット微小管しか存在しないのに対し、繊毛内には2本の微小管が連なったダブレット微小管が存在している。これらのダブレット微小管内には、多くの微小管内タンパク質が結合しており、チューブリン格子の内側から安定化されている。また、生体内でこれらのダブレット微小管が分岐し、2本のシングレット微小管へと分岐する例も観察されている。これらの繊毛の微小管構造を模倣することで、人為的に微小管を安定化したり、複雑な微小管構造を構築する新たな技術の開発が期待された。そこで、本研究では、繊毛の微小管構造を模倣することを目指して、微小管内外への結合配列を有した人工タンパク質を構築した。微小管内外に結合できるタンパク質とチューブリンを共重合し、in vitroで微小管内への封入を行った。このようにして重合した微小管構造は全体がまっすぐとなっており、安定化されていることが明らかになった。また、微小管内外に結合するタンパク質を加えた条件では、シングレット微小管の外側にもう一層のチューブリンの層が形成され、ダブレット微小管が構築された。また、これらのダブレット微小管が分岐し、二本のシングレット微小管が形成される例も観察された。このように、本研究では新たな微小管構造の改変技術を形成することができ、将来的に微小管をナノマテリアルとして用いる新たな技術の基盤を構築することができた。
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