研究課題/領域番号 |
22K15082
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
庄司 佳祐 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (30880116)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | piRNA / piRNA cluster / トランスポゾン / カイコ / BmN4 |
研究実績の概要 |
piRNAはゲノム中に存在する非自己因子であるトランスポゾンを選択的に抑制する。この際、piRNAクラスターと呼ばれるゲノム中の領域が一種の記憶装置として機能し、piRNAクラスター中のトランスポゾン断片からpiRNAを産生することでトランスポゾンの発現を抑制しているとされている。一方、現存する生物のゲノムを使った解析からは、”今現在”piRNAクラスターが存在することは分かるものの、どの様にして”新たに”成立するかは分からない。本研究では、カイコ培養細胞を用いて、どのようなゲノム中の領域がトランスポゾンを新たに”記憶”し、piRNAを産生するのか、をゲノムワイドに明らかにすることを目指している。 本年度は、カイコゲノム中に存在するpiRNAクラスターとして同定されているtorimochiが持つ性状を、nanoporeシークエンサーを中心とした複数のシークエンス結果を横断的に使うことで明らかにした。その結果、torimochi は外来配列を捕獲するpiRNA clusterであると同時に、カイコ培養細胞において最も活発に転移しているトランスポゾンであることが明らかになった。 この結果はtorimochiがpiRNAクラスターになりたての配列であることを示唆しており、また、本研究結果ではtorimochiのように活発に転移しているトランスポゾンを複数同定することに成功した。 これらの結果はtorimochiをモデルとしてpiRNAクラスターの成立メカニズムに関する研究を行える可能性を示唆しており、研究計画の達成に向けて大きな進展をしたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、カイコ培養細胞を用いて、どのようなゲノム中の領域がトランスポゾンを新たに”記憶”し、piRNAを産生するのか、をゲノムワイドに明らかにすることを目指している。そのため、本研究計画の達成には、モデルとできるゲノム領域の特定と、ゲノムワイドスクリーニング系の構築が必要となる。 モデルとなるゲノム領域としては、本年度は、カイコゲノム中に存在するpiRNAクラスターとして同定されているtorimochiが持つ性状を、nanoporeシークエンサーを中心とした複数のシークエンス結果を横断的に使うことで明らかにした。その結果、torimochi は外来配列を捕獲するpiRNA clusterであると同時に、カイコ培養細胞において最も活発に転移しているトランスポゾンであることが明らかになった。 また、現在までにゲノムワイドスクリーニング系はほぼ構築できているが、プラスミドのトランスフェクションが、細胞によってはプラスミド全体からのsiRNAの産生を誘導する問題に直面している。そこで、導入するプラスミドを改変し、siRNAの産生とpiRNAの産生を分けられるような設計に変更した。 今回直面した問題は、遠回りをする必要のある問題ではあるものの、一方ではsiRNAの産生とpiRNAの産生にかかるゲノム領域をゲノムワイドに分別できる実験系を構築できる可能性を秘めており、最終的な成果をより緻密なものにできる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、構築つつあるゲノムワイドスクリーニング系の確立を行う。さらにこのスクリーニング系を用いて、ゲノム上の領域のうちpiRNAを産生しやすい場所を特定し、そのゲノム領域が持つ特徴を調査する。 特に、piRNAクラスターになりたての配列である可能性が示唆されるtorimochi配列を中心とした解析を行うことで、ゲノム上のある領域が、非自己を認識できるようになるというのはどういうことか、を明らかにすることを目指す。 また、新規スクリーニング系では、piRNAを産生するゲノム領域とsiRNAを産生するゲノム領域を分けられるようになることを期待している。これがうまくいけば、piRNAを産生するゲノム領域とsiRNAを産生するゲノム領域間の違いを明らかにすることに繋がり、二つの非自己認識経路の使い分けとクロストークを解明できる。
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