研究課題/領域番号 |
22K15097
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
佐々木 妙子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (90933507)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 母性遺伝 / マイトファジー |
研究実績の概要 |
ほとんどの真核生物でミトコンドリアDNA (mtDNA) は片親遺伝、主に母性遺伝する。近年、受精後の父性ミトコンドリア(父性mt)と内部のmtDNAのオートファジーによる分解が線虫C. elegansで初めて示された。本研究では、父性mtだけが選択的にオートファジーに導かれる分子メカニズムを、イメージング・プロテオミクス・遺伝学的手法を駆使して解明を目指す。 これまでの解析から、父性mtの分解にはALLO-1とIKKE-1が必須の因子であることが分かっていた。しかし、ALLO-1が父性mtに局在化するメカニズムやIKKE-1の役割は分かっていなかった。本年度は、これらに関する新しい知見を得たため、分子生物学会ワークショップ等で報告した。 これまで、ALLO-1は選択的に父性mtに局在化し、分解へ導くと考えられていた。しかし本年度の解析から、ALLO-1が筋肉のミトコンドリアや卵のミトコンドリアへも、わずかに局在化することがわかった。ただし、これらの局在は、父性mtに比べるとごく少量であった。すなわち、父性mtへALLO-1が「局在化」の後に「集積」することが、父性mt分解に重要である可能性が示唆された。 ALLO-1の「集積」を制御する因子として、IKKE-1があげられる。IKKE-1を欠損すると、ALLO-1の集積が弱まることが分かっている (Sasaki et al., in preparation)。本年度は、ikke-1の欠損による表現型を詳しく解析し、ALLO-1だけでなくコアオートファジー因子であるEPG-7、UNC-51の集積も弱まっていることを明らかにした。また、EPG-7を欠いただけでもALLO-1の集積が弱まることから、IKKE-1がEPG-7等のオートファジー因子を介してALLO-1の集積を促進している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①オートファジーに先立って起こる父性mtの変化、②ALLO-1が父性mtを認識するメカニズム、③その他の因子の役割の同定と解明を通じて、父性mt特異的オートファジーの分子メカニズムを解明することを目的としている。それぞれにおける進捗状況は以下の通りである。 ①オートファジーに先立って起こる変化を解明するために、精子からミトコンドリア(精子mt)を単離し、他組織のものと組成を比較しようとしている。当初は、精子mtの外膜をGFPでラベルし、免疫沈降により単離しようとしたが、精子の外膜が特殊であるためかGFP標識が困難であった。そこで、精子を単離したのちエアブラシを用いて破砕し、パーコール密度勾配遠心で精子ミトコンドリアだけを単離する手法を開発した。今後は他組織からの単離手法も検討し、比較プロテオミクスを行う予定である。 ②計画に従って、RNAiによる網羅的スクリーニングを行ったが、ALLO-1の局在化が完全に阻害される因子は見いだせなかった。そこで、そもそも他の組織において、ALLO-1はミトコンドリアに局在化しないのか確かめるために、筋肉特異的にALLO-1を発現させたところ、筋肉ミトコンドリアにもALLO-1が僅かながら局在化できることがわかった。このことから、ALLO-1の「局在化」だけでなく、その後の「集積」のステップが起こることが、父性mt分解に重要である可能性がある。 ③さらに、IKKE-1がALLO-1の「集積」のステップに関与することも明らかとなった。またこの「集積」は、オートファジーの初期因子にも依存していた。IKKE-1は初期因子の集積も制御しており、お互いの集積によってさらにALLO-1が集積するポジティブフィードバックの機構が明らかとなった。IKKE-1はこのフィードバックを正に制御していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オートファジーに先立って起こる父性mtの変化、および、ALLO-1が父性mtを認識するメカニズムについて、重点的に解析を行う。 本年度の解析から、ALLO-1はミトコンドリアに共通して存在する因子に局在化する可能性が浮上した。ただし父性mtではALLO-1が「局在化」したのち、「集積」するステップが見られる一方で、卵子のミトコンドリアを含めた他の組織のミトコンドリアでは、この「集積」が起こらない。IKKE-1が初期オートファジー因子の集積を介してALLO-1集積のステップを促進することが本年度の解析から明らかとなったが、同じ受精卵に存在する母性ミトコンドリアで集積が起こらない理由はIKKE-1だけでは説明がつかない。したがって、依然として父性mtとその他のミトコンドリアとで、明らかになっていない違いがあることが予想される。そこでまず、単離した精子mtとその他の器官(卵子を含む)のミトコンドリアとで比較プロテオミクスを行う。現在の単離手法では、まだプロテオミクスに十分な量と質のミトコンドリアが単離できていないため、手法の改善を行う予定である。また、イメージングによっても精子mtの変化を捉えるために、ミトコンドリア内膜、外膜、mtDNAの可視化も進める。ただし、本年度の解析から、ミトコンドリアの膜系をGFP等の蛍光タンパク質で標識すると、形態や機能を損なうことが分かっているため、蛍光色素を用いた可視化方法の樹立を試みる予定である。
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