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2022 年度 実施状況報告書

ミトコンドリアのストレス環境適応と品質管理の制御

研究課題

研究課題/領域番号 22K15107
研究機関京都産業大学

研究代表者

川波 しおり (赤羽しおり)  京都産業大学, 生命科学部, 研究員 (70793355)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワードミトコンドリア / ミトコンドリア品質管理 / PINK1 / ストレス応答
研究実績の概要

ミトコンドリアは生命活動のためのエネルギーを産生するが、同時に活性酸素種を発生するため常に障害に晒されている。そのため、障害が蓄積したミトコンドリアを積極的に細胞から排除する品質管理機構が備わっている。このミトコンドリア品質管理において、ミトコンドリア外膜上でユビキチンリン酸化酵素PINK1とユビキチンリガーゼParkinが共同的に働くことで、障害が蓄積したミトコンドリアにユビキチン鎖が付加され、最終的にはオートファジー分解によって排除される。これまでの研究から、ミトコンドリア品質管理の詳細な分子機構が明らかになってきたが、一方で、PINK1とParkinの機能がミトコンドリア内部からどのように制御を受けているのかは不明な点が多く残っており、細胞内環境の変化に伴う様々なストレスとの関係も明らかではない。
本研究では、ミトコンドリアにおけるストレス環境適応と品質管理の関係を明らかにすることを目指し、これまで考慮されていなかった「ミトコンドリア内部環境の変化を介して品質管理を制御する」という観点から、ストレス環境に応じた品質管理の新たな分子メカニズムの解明に取り組む。令和4年度は特に、 ROS障害による膜電位が低下したミトコンドリアにおける品質管理の制御機構の解明に取り組んだ。ミトコンドリア膜透過装置構成サブユニットであるTIM23は膜電位依存的に機能すると考えられてきたが、免疫沈降及び質量分析による解析を行ったところ、膜電位が低下したミトコンドリアにおいて形成されるPINK1複合体にTIM23が含まれることを見出した。TIM23のさらなる解析を行った結果、PINK1の活性化にTIM23が重要であり、TIM23はミトコンドリア内膜に局在するプロテアーゼOMA1による分解からPINK1を保護する機能を持つことが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、ストレス環境(①低酸素環境、②ROS障害による低膜電位)において、ミトコンドリア内部からのシグナルに着目してミトコンドリア品質管理の制御機構を明らかにすることで、ストレス環境への適応におけるミトコンドリアの機能調節について総合的に理解する。
令和4年度は、膜電位が低下したミトコンドリアにおけるPINK1の活性化の制御機構について解析を行った。膜電位が低下したミトコンドリアにおいて、PINK1は高分子複合体を形成して活性化するが、複合体の構成因子の全容は明らかではなく、活性化の分子メカニズムも不明であった。免疫沈降や質量分析による解析の結果、PINK1複合体に膜透過装置構成サブユニットであるTIM23が含まれることを同定した。さらなる解析の結果、TIM23の発現抑制下ではミトコンドリア上のPINK1の量が減少することで、Parkinのミトコンドリア標的化が抑制されることが明らかになった。TIM23の発現抑制におけるPINK1減少の分子メカニズムを調べるために、ミトコンドリアプロテアーゼのノックダウンによる解析を行ったところ、ストレス誘導性プロテアーゼのOMA1がPINK1の分解に関わることが明らかになった。さらに、TIM23とOMA1の同時ノックダウンによる解析から、TIM23の発現抑制下ではOMAによりPINK1が分解されることで、活性化PINK1の量が減少し、Parkinのミトコンドリア標的化が阻害されることが示された。さらに共免疫沈降による解析の結果、TIM23との相互作用が弱まるPINK1の病原性変異体を同定した。これらの結果から、PINK1の活性化におけるTIM23の新たな役割が示されたとともに、ミトコンドリア外膜上におけるPINK1の活性化が厳密に制御されていることが明らかになった。

今後の研究の推進方策

低酸素ストレスは、病態下だけでなく生理的条件でも起こる日常的なストレスであり、酸素消費によりATPを産生するミトコンドリアは、低酸素環境によりその機能が大きく影響を受ける。これまでに、低酸素下においてParkinのミトコンドリア標的化が促進されることを見出しており、さらに、同条件でミトコンドリアマトリックスのタンパク質が凝集することやストレス応答因子の発現が誘導されることを確認している。そこで、以下の2つの側面から低酸素ストレス下におけるミトコンドリア品質管理の分子メカニズムを明らかにし、マトリックス内部からのシグナルを介した制御機構を明らかにする。
1. 凝集マトリックスタンパク質の蓄積が、低酸素環境におけるミトコンドリア品質管理の促進に関与すると推測される。既に、マトリックスのプロテアーゼLONP1やシャペロンmtHSP70、DNAJA3の凝集の蓄積が見られており、これらの因子について、HeLa細胞における発現抑制および過剰発現を行い、Parkinの細胞内局在を解析する。またプロテアーゼ活性やシャペロン活性を欠失した変異体を用いて、Parkinの局在を解析し、Parkinのミトコンドリア標的化における凝集タンパク質の役割を明らかにする。
2. 低酸素環境において、細胞質のストレス応答性転写因子であるCHOPの発現が誘導されることを見出している。そこで、CHOPおよびCHOPにより転写誘導されるストレス応答性因子について、低酸素下での発現量を調べ、また、発現抑制によるParkinのミトコンドリア標的化に及ぼす影響を解析する。これにより低酸素環境でのミトコンドリア品質管理における細胞質のストレス応答性因子の役割を明らかし、ストレス応答における品質管理の制御について総合的に明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

当該年度は、実験機器や試薬等について既存のものを使用して研究を遂行できたため支出が低くなった。次年度以降は、これまで対象としてこなかった新規の遺伝子に対するオリゴDNAやRNA、抗体を購入する予定である。また学会等でこれまでの成果について発表するために、旅費や学会参加費としての支出が生じる予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] TIM23 facilitates PINK1 activation by safeguarding against OMA1-mediated degradation in damaged mitochondria2023

    • 著者名/発表者名
      Shiori Akabane, Kiyona Watanabe, Hidetaka Kosako, Shun-ichi Yamashita, Kohei Nishino, Masahiro Kato, Shiori Sekine, Tomotake Kanki, Noriyuki Matsuda, Toshiya Endo, Toshihiko Oka
    • 雑誌名

      Cell reports

      巻: - ページ: -

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ミトコンドリア膜透過装置TIM23はPINK1複合体のメンバーとして、脱分極で誘導されるPINK1分解を抑制する2022

    • 著者名/発表者名
      赤羽しおり、渡邊聖菜、小迫英尊、松田憲之、遠藤斗志也、岡敏彦
    • 学会等名
      2022年分子生物学会

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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