細胞内の生化学反応はこれまで流動的な細胞質を想定して議論されてきた。しかし、細胞質の物性はストレス応答などにより固体に近い状態まで流動性を失うこともある。そのような固い細胞質でシグナル伝達がどのように行われているのかは未だ分かっていない。本研究では、分裂酵母の休眠期脱出をモデルシステムとして、固体化した細胞質がどのように環境応答し休眠状態を脱しているのかの分子機構解明を目指す。そこで、固体化した細胞質で増殖再開シグナルを伝達するためには通常の休眠期特異的な未知の因子が必須であると仮説を立てて、遺伝学と次世代シーケンサーを組み合わせる新規スクリーニング手法を考案した。また、細胞質固体化の人為操作手法を開発することにより、固体化によるストレス耐性と増殖再開能のトレードオフ閾値決定機構の解明を目指す。初年度は、スクリーニング系と光遺伝学系の開発を行ったが、どちらも系の実現可能性を検証する段階までしか行けておらず、完成にはさらなる時間を要することが分かった。しかし、その過程で休眠細胞の細胞質物性制御における新しい分子機構が分かってきたために、最終年度はその分子機構を詳細に解析し、休眠細胞が活動を再開させるための一番早い段階で、細胞質流動性の制御が必要であり、また、その細胞質流動性を担う分子実態を明らかにすることができた。今後は、本研究成果をもとに細胞質流動化を人為的に操作する手法や、さまざまな生物種、細胞種で同様の機構の有無や生理学的意義を探っていく。
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