研究課題/領域番号 |
22K15130
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
新田 昌輝 基礎生物学研究所, 初期発生研究部門, 特任助教 (50829900)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 平面内細胞極性 / 損傷修復 |
研究実績の概要 |
多くの上皮組織は組織の向きと細胞の向きが一致する平面内細胞極性(Planar cell polarity; PCP)を発達させることで機能を発揮する。上皮組織が損傷を受けると幹細胞から細胞が供給され元の構造が再構築される。では、損傷後に供給された細胞はどのようにして、自らの向きを組織の向きと一致させるのだろうか。本研究はマウス卵管を題材として、大きく成長した場において新規に細胞の向きを揃える原理の解明を目指す。 発生過程においてPCPは、コアPCP因子が細胞境界上で一方向的に偏ることにより形成される。この偏りの形成には隣接細胞間でのコアPCP因子の相互作用が必要である。これまでの解析から損傷修復過程においてもコアPCP因子の一方向的な偏りが獲得され、PCPが再生することを見出した。そこで、コアPCP因子を介して、非損傷領域の極性が損傷領域に伝播することでPCPが再生する可能性を考えた。本年度は数理モデルを導入し、この「伝播仮説」の検証を進めた。その結果、損傷の状態により極性の伝播だけでPCPを再生できる場合とできない場合があることを見出した。このことは伝播仮説だけではPCPの再生を説明できない可能性や、さらにはPCP再生を阻害しうる条件(リスク因子)があり、正常な損傷修復過程ではリスク因子を回避する機構が働く可能性を示唆している。数理モデルを用いた解析を進めることで、正常な損傷修復過程の解析だけでは見えてこないPCP再生のリスク因子とその回避機構を明らかにできると期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は損傷修復過程におけるコアPCP因子の局在の変化を制御する分子を探索するため、RNA sequencing を行う計画であったが、安定したサンプリングが難しく実現できなかった。一方、数理モデルを用いた解析により、ロバストなPCP再生を実現するためにはどういったリスク因子を避ける必要があるかといった切り口からPCP再生を解析できるようになった。本来の目標は達成できなかったものの、新たな研究の糸口を見出したことからおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
数理モデルを用いた解析でPCP再生におけるリスク因子を探索すると同時に、生体内で操作可能なリスク因子が同定できれば実験的な検証にも取り組む。また、伝播仮説の検証として、コアPCP因子を欠損する細胞集団を卵管上皮組織で作製し、PCPの再生がコアPCP因子欠損集団を超えて進行するか否か評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたRNA sequencing を行わなかったことが主な理由である。数理モデルでの解析に必要な計算機の購入やマウスでの実験に必要な経費、成果発表のための旅費として助成金を使用する。
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