研究課題/領域番号 |
22K15149
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
南野 尚紀 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 特任助教 (20823256)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 膜交通 / 有性生殖 / 雄性配偶子 / ライブイメージング / ゼニゴケ |
研究実績の概要 |
コケ植物を含むいくつかの植物の系統では雄性配偶子として動物と同様に運動性の精子が形成される。本研究ではコケ植物ゼニゴケをモデルとして,精子変態期に起こる細胞内ダイナミクスを制御する仕組みについて,ライブイメージング系の確立と細胞内分解系の役割に特に注目した解析を進めている。 昨年度に検討した培養条件で造精器のイメージングを行った結果,活発なエンドサイトーシスによる細胞膜タンパク質の取り込みをライブで観察することに成功した。 精子変態期における活発なエンドサイトーシスの制御機構をさらに詳細に調べるため,エンドサイトーシスにおいて積荷タンパク質の選別にかかわるPICALMファミリーに着目した。ゼニゴケにはPICALMファミリーに属するタンパク質は3つある。そのうちMpPICALM-Kと名付けたタンパク質はC末端側にキナーゼドメインをもつというこれまでにない特徴がみられた。MpPICALM-Kの機能を調べるため,分子遺伝学的解析に加え,Alphafold2を用いたタンパク質立体構造予測や深層学習モデルを用いた表現型解析を行った。その結果,MpPICALM-Kは精子変態期でのエンドサイトーシスの亢進により起こる細胞膜タンパク質の分解には関与しない一方で,精子変態期のある時期において鞭毛の基部に局在し,精子の運動機能に関与する可能性が見出された。 エンドサイトーシスにより分解されるタンパク質と分解されずに成熟精子に残るタンパク質とを選別する仕組みに迫るため,成熟精子の細胞膜タンパク質の候補をオミクスデータを元に選択した。選択した候補因子の局在観察を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度の初期は異動に伴って栽培条件および培養条件の再検討を行う必要があり,研究計画の進行について全体的に遅れが生じた。 再検討した培養条件で細胞膜タンパク質の動態を観察した結果,エンドサイトーシスによる細胞膜の取り込みを約24時間程度ライブで観察することに成功した。ライブイメージング系の確立に向けて進展がみられた一方で,成功率はまだあまり高くなく,長時間の観察にも至っていないため,もう少し培養と観察条件の検討が必要である。細胞膜タンパク質に加えて鞭毛マーカータンパク質の観察も行ったが,蛍光退色が早くうまく観察ができなかった。現在より安定な蛍光タンパク質へ繋ぎ変えたものを準備中である。 エンドサイトーシスにおいてアダプタータンパク質としてはたらくPICALMファミリーに注目し解析を行った。ゼニゴケには3つのPICALMタンパク質があるが,そのうちMpPICALM-Kと名付けたものは,C末端側にキナーゼドメインをもつ植物特異的なPICALMタンパク質であることがわかった。機能解析の結果,MpPICALM-Kは精子変態期における細胞膜タンパク質の分解には関与しない一方で,鞭毛基部に局在し精子の運動機能に関わるという興味深い結果を得ることができた。精子変態期における細胞膜タンパク質分解の制御システムについてはさらに調べるべき点も多く,更なる検証を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
ライブイメージング系について,長時間かつ安定した結果が得られる培養・観察条件の検証を引き続き進める。現在ライブでの観察ができつつある細胞膜タンパク質の動態について、BFAなどの薬剤処理条件での動態観察なども行い,その影響について調べ,ライブイメージング系の有効性を示す。その他のマーカーについて,一部については退色しにくい蛍光タンパク質につなぎ変えたものの形質転換株の作出なども行いながら,観察を進めていく。 精子変態期におけるエンドサイトーシスの制御機構についても引き続き調べる。エンドサイトーシス制御因子のうち雄性生殖器で発現がみられるものを探索する。注目すべき因子については変異体を作出し,エンドサイトーシスマーカーの挙動の観察や精子の運動性の評価などの表現型解析を行う。細胞内局在についても観察を行う。MpPICALM-Kについても,精子運動への具体的な寄与についてさらに検証する。 上記に関連して,成熟精子の細胞膜に局在するタンパク質についても引き続き探索する。いくつかの候補因子について,局在解析を進める。成熟精子の細胞膜タンパク質に局在が観られたタンパク質について,分解されるものと比較を行い,分解の選択性が生じる仕組みを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の異動に伴う栽培条件や観察条件の検討に時間を要した。それにより研究計画に遅れが生じたため,その分が次年度使用額となった。また研究遂行の過程で当初の見込よりも使用額を抑えることができ,その分が次年度使用額となった。 次年度はゼニゴケの栽培,観察,分子生物学実験に必要な消耗品類の購入や,シーケンスなどの委託解析費用に助成金の多くを使用予定である。また得られた研究成果を学会で発表するための旅費としても使用予定である。
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