研究課題/領域番号 |
22K15157
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
増田 亘作 筑波大学, 医学医療系, 特別研究員(PD) (70906221)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 概日時計 / 位相応答 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
本年度においては、まず、特異点応答(SR)を用いた概日リズムの同期特性推定手法の有効性を確認するため、ルシフェラーゼアッセイによりSRを計測した。まず、培養細胞を用いた先行研究と実験の結果から、マウス胎児繊維芽細胞やRat-1細胞など様々な細胞株でSRが計測できることを確認するともに、それらが様々な内因性のシグナルや酸化ストレス、温度刺激など様々な刺激に対して独自の応答特性を持つことを確認した。特に、Forskolinや培地交換など、多くの刺激が概日時計の主観の夕方ごろの時刻(位相)にリセットする場合が多いことが分かった。このことは、多くの刺激が共通の位相応答のメカニズムを持つことを示唆している。一方で、酸化ストレスや温度刺激はこれらとは異なる位相へのリセットが確認されたことから、これらの刺激は異なる位相応答のメカニズムを持つ可能性が示された。また、組織培養を用いた温度刺激に対するSR計測の結果から、同じ刺激に対しても細胞や組織によって応答特性が異なることが示された。加えて、恒明環境下ではin vivoでもマウスの概日リズムが特異点状態に至ることが確認されるとともに、12時間暗期の刺激に対して、SRに似た応答が観察された。 また、リセットされる位相が異なるいくつかの刺激(デキサメタゾン、酸化ストレス、温度刺激など)に対して、培養細胞を用い、qPCRによりPer2やBmal1などの発現ピーク時刻の異なる時計遺伝子の発現量をそれぞれ定量化することで、SR時の概日時計のネットワーク全体の応答を評価した。その結果、デキサメタゾンに対してはほかの時計遺伝子に比べてPeriod遺伝子の発現量が大きく上昇するなど、SR時においても先行研究と一致する応答性が確認できた。このことから、SRを用いることで従来よりも簡便に概日時計の応答性を評価できることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況としては、まず、SRによる同期特性推定手法の有効性の検証としてはおおむね当初の計画を達成できた。一方、qPCRによるSR時の概日時計のネットワーク全体の応答性の解析については、やや実験結果にばらつきがあることから、より厳密な定量化が必要であると考えられる。そのため、当初計画していたシミュレーションによる位相応答メカニズムの解析の計画についてもやや実施が遅れている。一方で、in vivoでのSRの計測は2年間の研究計画を通して実施する予定であったが、恒明環境を用いることによりin vivoでもSRが計測できることが確かめられたことは大きな進捗であるといえる。 以上の結果を総合して、現在までの進捗状況を(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず、qPCRによるSR計測の試行回数を増やすことにより、より厳密な概日時計の応答の定量化を行う。In vivoにおいてもSRが観察されることが分かったことから、この条件においてもqPCRを用いて、概日時計ネットワーク全体の応答の評価を行う。これらのデータに基づいて、既存の概日時計ネットワークの数理モデルを用い、各刺激に対する位相応答メカニズムの違いについて評価する。また、qPCRにより各時計遺伝子の応答性を定量化できることが十分確認できれば、RNA-seq解析を用いてより包括的な遺伝子ネットワークの応答を解析することにより、広範な遺伝子群の応答性を考慮した位相応答モデルの確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、ルシフェラーゼアッセイ、qPCRおよびRNA-seq解析によるデータ取得を並行して行う予定であった。一方で、当該年度においては、より多くの入力に対して基礎的な応答特性を計測することを優先したため、研究の実施内容としてはルシフェラーゼアッセイとqPCRによるデータの取得が中心となった。結果、比較的費用が高額となるRNA-seq解析に関わる計画を後ろ倒しにしたため、研究費の次年度使用が発生した。しかしながら、研究実施の順序に前後はあったものの、全体の研究計画自体には変更はないため、次年度使用の研究費は当初の研究計画に沿って使用する予定である。
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