研究実績の概要 |
嗅覚は、とりわけ激しく光が減衰し視界の悪い水中において、視覚に劣らず生存に重要な感覚である。初期の脊椎動物も水中生活を送っていたため、初期脊椎動物における嗅覚の進化を明らかにすることは、われわれヒトを含めた脊椎動物の来歴を理解するうえで不可欠である。そこで本研究では円口類(とくにヌタウナギ)の嗅覚受容について、① 嗅覚受容体遺伝子の探索と分子系統解析、② 嗅覚受容体遺伝子の発現解析、③ におい物質に対する嗅上皮の応答性の電気生理学的比較を組み合わせて調べることで、初期脊椎動物における嗅覚受容メカニズムの進化的起源および多様化の解明を目指す。 本年度はまず、ヌタウナギのゲノム情報から嗅覚受容体遺伝子(mOR, V1R, V2R, TAAR)の探索を行い、その配列情報から分子系統解析を行った。その結果、ヌタウナギの嗅覚受容体はヌタウナギの系統独自で多様化していることがわかった。とりわけ、V2Rの多様化が顕著であった。 次に、①で調べた嗅覚受容体遺伝子の一部について、ヌタウナギ嗅上皮のcDNAからのクローニング、およびin situ hybridization法による嗅上皮での発現解析を実施した。その結果、嗅覚受容体遺伝子の少なくとも一部が実際に嗅上皮で発現していることが確かめられた。 さらに③について、嗅電図の実験系を確立し、数種のオドラントの提示による嗅上皮の応答をヌタウナギおよびヤツメウナギの嗅上皮から得ることに成功した。
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