生物における捕食性の進化は、被食者の認識や捕獲などに関わる様々な表現型の獲得によって成立する。しかし、各表現型進化の遺伝的背景には未知な点が多い。そこで本研究では線虫を誘引し、粘着網型の菌糸罠で捕獲する線虫捕食菌Arthrobotrys oligosporaに着目することで一連の捕食システムに関わる遺伝子を同定することを目的とした。更に、得られた遺伝子について線虫捕食菌-非捕食菌間で比較解析を行い、線虫捕食システム関連表現型の進化に伴う遺伝子の進化を明らかにすることを目指した。今年度は線虫捕食菌の表現型変異株を作出するため、紫外線ランダム変異導入の条件決定に必要な基礎的なデータと変異株の収集に取り組んだ。線虫捕食菌A. oligosporaおよび線虫Caenorhabditis elegansを調達し、変異を導入する際の菌糸破砕や紫外線強度などについて実験条件の最適化を行った。得られた条件で変異誘導を行った結果、線虫を充分量与えても線虫捕食を行わない、線虫捕食菌の表現型変異株を得ることに成功した。次の段階では得られた変異株のゲノム解析を行い、表現型変異をもたらした候補変異を同定する。また、表現型変異株の収集についても継続して行い、線虫捕食システムのあらゆる段階における表現型変異を探索する。なお、申請者は海外における研究滞在のため、令和4年10月31日付けで研究中断の申請を行い、承認通知を受けている。
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