研究課題/領域番号 |
22K15172
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
河野 美恵子 総合研究大学院大学, 統合進化科学研究センター, 特別研究員 (70814276)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 地衣類 / 三者共生系 / 第三の共生パートナー |
研究実績の概要 |
2022年度に行ったハコネサルオガセ共生系の培養実験から長期間(6~12ヶ月)培養した方がバクテリアを加えた場合と加えなかった場合で共生体の表面構造や長さなどの差が顕著になることが明らかになったため、2023年度はバクテリアの有無でより顕著に差が出る培養条件を検討した。途中、培養用のインキュベーターが故障したため、新しいインキュベーターを用いて培養条件を再度検討し、現在順調に共生体が生育している。 ハコネサルオガセの長期間培養の間、野外サンプルを用いて地衣類での三者共生系を明らかにした。これまで地衣類の第三の共生パートナーの候補としてバクテリアや担子菌酵母が挙げられてきたが、いずれも共生系での役割が明らかでなく必須な第三の共生パートナーは報告されていなかった。そこで私は硫化水素環境というほとんどの生物にとっては有害な環境に適応したイオウゴケに着目し、第三の共生パートナーの探索を行った。その結果イオウゴケ共生系に必須な共生バクテリアを発見し、地衣類がバクテリアを含む三者共生系であることを初めて明らかにした。アッセンブルされた共生バクテリアゲノムには硫化水素をエネルギー源とし炭素を固定するプロセスに関わる遺伝子が複数見つかったため、イオウゴケは共生バクテリアとの三者共生系を確立したことで生物にとって生存が極めて困難な硫化水素環境に適応したと考えれられる。またこの研究の過程でFISH法を用いて共生体に局在する共生バクテリアを可視化する手法や、ロングリードとショートリードを用いてより繋がったバクテリアゲノムを得る解析手法を確立することができた。さらに、地衣類の共生体に存在する次世代シーケンスライブラリ作成を阻害する物質を除去する実験手法も確立できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験室の培養でハコネサルオガセの共生体が確認できるのに2ヶ月が必要であり、さらにバクテリアがいる場合といない場合で形態に差が生じるのに6-12ヶ月かかることが分かっている。今年度はインキュベーターの故障もあり、条件検討を再度行なったためやや培養実験に時間がかかったが、現在は順調に共生体が成長しており、もともと培養に時間がかかることは予測範囲であったので進捗は概ね順調と考えられる。培養実験の条件検討を行っている間には野外で採集したイオウゴケを用いて地衣類の三者共生系についても明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の結果から今後は以下の研究を推進する。 1)イオウゴケの研究によって確立したFISH法を用いた手法によりハコネサルオガセの共生体内でのバクテリアの局在を明らかにする。 2)培養実験の遅れにより実施できていなかったリボソームRNA除去による全トランスクリプトーム比較を行う。 3)ロングリードだけでなく新たなアッセンブリ手法を用いることでハコネサルオガセ共生バクテリアのゲノム配列を改善する。
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次年度使用額が生じた理由 |
インキュベーターの故障により、培養した共生体を必要とする蛍光顕微鏡を用いたバクテリア局在の観察や全トランスクリプトーム比較が行えなかったため。
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