研究課題/領域番号 |
22K15178
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
藤原 泰央 東京都立大学, 理学研究科, 特任助教 (40932330)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シダ植物 / 倍数体 / 交雑 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
1)人工倍数体の作出 人工のF1雑種からの倍数体の作出には2つの方法を試みた。第1にF1雑種の非減数胞子由来の配偶体を自殖させる方法、第2にF1雑種のコルヒチン処理による方法である。第一の方法のために、まずF1雑種から胞子収集・胞子長径の計測を行ったところ、F1雑種は、不稔胞子に加えて、通常の2倍体が形成する減数胞子よりもサイズの大きい非減数由来と推定される胞子を1-2%ほどの割合で形成することが示された。これらの胞子をKlekowski培地に播種した結果、2倍体性の配偶体を得ることができた。しかしながら、その後、配偶体を単離・自殖を促したが、胞子体形成は生じず、倍数体の作出はうまくいかなかった。第2の方法では、F1雑種の根から栄養繁殖で発生した株を採取し、0.5-1%コルヒチン溶液中で2日間処理を行った。処理した個体の新葉が展開するごとにFCMで倍数性を推定した結果、1個体において安定して4倍体性の葉が形成されており、今後も定期的に倍数性を調べることで倍数性が固定したかを確認していく予定である。 2)両親種・人工F1雑種・野生倍数体の間での遺伝子発現パターン比較 それぞれ4グループから3個体を用いて展開した新葉からRNA抽出を行い、RNAseqによよって4Gb/個体でのトランスクリプトームデータの取得を行った。両親種間での双方向Blastによって4740個のホメオログ遺伝子を特定し、これらの遺伝子の発現パターンをグループ間で比較をした。F1雑種では10%前後の遺伝子が両親種の発現量とは異なる「超越発現」示すのに対し、野生倍数体では超越発現する遺伝子が1%までに減少していることが示された。またF1雑種において、ホメオログ発現バイアスを示す遺伝子が両親種由来サブゲノムで見られたのに対して、野生倍数体では、片親由来サブゲノムに偏った発現バイアスが検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要において記したように、コルヒチン処理に人工倍数体作出に成功し、現時点では安定的に維持できている。これらの人工倍数体は倍数体におけるゲノム進化の過程を追跡するのに大いに役立つと考えられる。また遺伝子発現パターンの解析でもF1雑種における異質なゲノムが融合することで生じた異常な遺伝子発現が、倍数体として固定する中で正常なレベルに戻ることを示すことができ、シダ植物の倍数体ゲノム進化におけるダイナミクスの一端を明らかにすることができた。したがって本研究は順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していたゲジゲジシダ類をモデルにした研究は継続し、次年度以降、人工倍数体を用いた発現比較の解析を実施するとともに、両親種と倍数体種の野外集団を広い地域から集め、ゲノムスキミングによる反復配列の蓄積のパターンを明らかにしていく予定である。 またシダ植物倍数体における遺伝子発現に関してゲジゲジシダで興味深いパターンが見られたため、他のシダ植物倍数体でも同様な進化が見られるのかどうかを検証する必要があると考えられる。来年度までに遺伝子発現の解析に使用できるように、次年度はゲジゲジシダの他にも実験系として活用できる倍数体種群を探索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも、次世代シーケンスの外注に係る費用が抑えられたため、少額の次年度使用額が生じた。次年度には複数回の野外調査を予定しているため、調査にかかる旅費として使用する。
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