研究課題/領域番号 |
22K15178
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
藤原 泰央 独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (40932330)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シダ植物 / 倍数体 / 交雑 / 集団ゲノミクス / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
1.両親種・人工F1雑種・野生倍数体の間での遺伝子発現パターン比較 シダ植物の異質倍数体種での遺伝子発現パターンの変化を明らかにするために、ゲジゲジシダ類を用いて、親種・人工F1雑種・野生倍数体間での各サブゲノムの遺伝子発現パターンの比較を行った。よりロバストな結果を得るために昨年度のトランスクリプトームデータの再解析を実施した。結果、F1雑種・野生倍数体間で遺伝子発現パターンが高度に保存されている一方、野生倍数体では両親種の発現量とは異なる「超越発現」を示す遺伝子やそれぞれの親種方向へのホメオログ発現バイアスを示す遺伝子の増加が見られた。しかし被子植物において報告されている極端な片親由来のサブゲノムへの発現の偏りは観察されなかった。 2.集団ゲノミクスによる異質倍数体種の起源の推定および倍数体化後の交配様式進化の推定 ゲノム縮約解析の1つであるMIGseq法を用いて、コゲジゲジシダの起源の時期・地域を明らかにするとともに、両親種とコゲジゲジシダの各集団のFisを計算することで交配様式の推定を行った。ゲノム縮約法において異質倍数体を扱うことは得られた遺伝情報を各サブゲノムに振り分けることの困難さからほとんど行われていなかったが、我々は新たに両親種のデータをレファレンスに効率的に異質倍数体のデータを各サブゲノムに振り分ける方法を確立した。結果として最終氷期後期に台湾・中国沿岸部において各親種からコゲジゲジシダのサブゲノムが分岐した可能性が示された。また交配様式について、親種においては、ホウライゲジゲジシダでおおよそFis=0の他殖性を示し、オオゲジゲジシダで0-0.3の範囲のFisでmixed matingを示した。一方でコゲジゲジシダでは両サブゲノムで0.5以上のFisで高自殖性を示すことが明らかになり、異質倍数体種分化後に高自殖性への進化が生じたことを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シダ植物倍数体の遺伝子発現変化に関しては、被子植物での報告とは異なり遺伝子発現の保守性が示され、シダ植物ゲノムの進化が静的であるという議論をサポートする結果が得られ、論文として発表することができた。また異質倍数体の集団ゲノミクスに関する研究については、他の異質倍数体種でも応用可能な手法を確立できたため、来年度以降もこの方面の研究を発展させていける可能性が示された。よって本課題は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は異質倍数体の集団ゲノミクスに関する研究について論文執筆を進める。 また研究実施計画で予定していたゲノムスキミングによる異質倍数体ゲノムの反復配列の進化に関する研究については、シダ植物におけるミトコンドリアゲノムのリファレンスが得られていないため中断していたが、ナノポアによるロングリードシーケンスなどを利用し、ゲジゲジシダ類のミトコンドリアゲノムを取得することで対処する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に所属の変更があり、申請時の実施計画から変更があったためである。 来年度に実施する研究計画の実験試薬類の購入に使用する。
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