研究課題/領域番号 |
22K15182
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡崎 友輔 京都大学, 化学研究所, 助教 (40823745)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 微生物生態学 / 琵琶湖 / ウイルス / 細菌 / シングルセルゲノム解析 |
研究実績の概要 |
メタゲノム解析の普及で、環境中のウイルスのゲノムを分離培養を介さず直接得られるようになった。しかし新たな課題となっているのが「ゲノム情報だけでは、ウイルスの生態の理解に必須の『宿主』が分からない」ことである。本研究では、湖沼の細菌とそれに感染するウイルス群集を対象に、その両者を繋ぐ情報に多様な先端技術を駆使して迫る。これにより、湖沼微生物生態系において「どのウイルスがどの細菌に感染するのか?」を網羅的に解明し、その生態と進化をとりまく理解を飛躍させる。今年度までの研究では、琵琶湖沖において、夏季・冬季それぞれ2水深から得られた細菌のシングルセルゲノム解析を行い、細菌ゲノムと同時に得られるウイルスゲノム配列に着目することで、ウイルス-宿主ペアの網羅的な特定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、琵琶湖の細菌のメタゲノムサンプルにHi-C(high-throughput chromosome conformation capture)技術を応用することで、未培養の細菌とウイルスの相互作用を網羅的に解明する計画であった。しかしこの方法は、試料の固定およびDNAの処理条件(ホルムアルデヒド濃度、DNA切断酵素の種類、ライゲーションの反応時間や反応温度等)の最適化、得られたシーケンス情報の解析手法の確立、効率よく情報を得るために必要なDNA量・シーケンス深度の検討等、多くの技術的な不確定要素を含む点が課題であった。 研究開始後、シングルセルゲノム解析技術を基盤とした新たな手法によって、本研究の目的である、ウイルス-宿主ペアの網羅的解析が実現できる目途が立った。そこで計画初年度となる本年は、シングルセルゲノム解析を優先して研究を進めた。その結果、夏季のサンプルを用いた予備解析の段階で多くのウイルス-宿主ペアの存在が明らかとなり、続く冬季のサンプルを用いた追加解析では、さらに多くのウイルス-宿主ペアが見つかり、これまでウイルスが見つかっていなかった、琵琶湖微生物生態系で量的に重要な位置を占める細菌系統に感染するウイルスの特定にも成功した。当初計画では初年次は技術開発に充て、ウイルス-宿主ペアの特定は二年次以降に本格化させる計画であったが、シングルセルゲノム解析技術の導入により、前倒しで進んでいることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きシングルセルゲノム解析の結果の分析を進め、多様な切り口から解釈を行うことで、琵琶湖の細菌とウイルスの相互作用の網羅的解明を進める。具体的には、宿主が特定されたウイルスゲノムを、すでに得られている季節動態の情報と統合的に解析したり、ゲノム上にコードされた遺伝子の情報を解析したりすることで、宿主の現存量の季節動態への影響や、宿主をめぐる他のウイルスとの競争関係を明らかにし、その感染が宿主の生理・代謝に与える影響やその適応的意義、微生物食物網や物質循環で果たす機能を明らかにする。さらに、シングルセルゲノム解析では、複数の細胞を一挙に解析する従来のメタゲノム技術では検出が難しい、ゲノム上の超可変領域の情報を得ることが可能である。これらの超可変領域は、ウイルス感染に対する抵抗性に関与している可能性が示唆されており、その詳細な解析によって、環境中におけるウイルスと宿主のせめぎ合いの実態解明も期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度をまたぐ出張の旅費が次年度からの支出となったため。それ以外に次年度使用額は生じていない。
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