研究課題/領域番号 |
22K15187
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 匠 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (00806432)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 氷河生態系 / 雪氷微生物 / メタゲノム / 立山 |
研究実績の概要 |
氷河表面の雪氷上では様々な微生物や小動物が群集を形成して、独自の生態系を構築している。氷河生態系が駆動する様々な生化学プロセスは、流域の物質循環にも深く影響を与えることが明らかとなりつつあり、生物学のみならず地球科学の面からも注目を集めている。一方で、氷河微生物の多様性や生態に関しては未だ不明な点が多く残されている。特に、極域以外の地域の氷河生態系に関しては情報が不足しており、それは日本についても例外ではない。本課題では、国内に現存する氷河に着目し、表面に生息する微生物、特に 細菌群集の構造や遺伝子情報を継続的に収集・解析することを目標としている。このような集中的な解析を通じて、従来調査の及んで来なかった日本の氷河生態系の実態解明を目指す。2023年度は、2022年度に引き続き富山県立山の氷河にて雪氷試料採集を実施した。そして、2022、2023年度の双方の試料から核酸を抽出して、細菌の16S rRNA遺伝子をIllumina MiSeqでシークエンスし、群集構造を解析した。その結果、解析した2年で年毎に細菌群集組成が大きく異なることが判明した。さらに、世界各地の様々な地域からこれまで収集してきた氷河細菌群集組成データと、今回の解析で得られた国内氷河のデータとを統合して比較解析を行ったところ、国内氷河表面に現れる細菌群集はいずれの地域の氷河細菌群集とも異なる群集構造を示すことが判明した。このことから、今回調査した国内氷河表面上では、従来調査されてきた世界各地の氷河微生物群集とは性質の異なる、独特の微生物群集が形成されている可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
富山県立山での調査は、当初予定していた通り本年度も実施し、新たな微生物試料を得た。また取得試料に対して群集構造解析を実施し、どのような細菌種がどれほど存在しているのかを具体的に示した。さらに、世界各地の比較氷河細菌群集と構造比較することで、国内氷河細菌群集の構造的特異性を明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度も引き続き立山での野外調査、試料収集を実施する予定である。そして、これまで蓄積したデータと統合することで、この3年間で調査地の微生物叢がどのように変化したのかを明らかにする。また、新規調査地で収集した試料についても同様に群集構造解析を行い、国内雪氷環境に生息する微生物叢について、より幅広い情報を取得する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
細菌群集構造解析は、当初シークエンスを外注する予定であったが、所属機関の設備を活用することで支出を抑えることができた。一方、メタゲノム解析に必要なシークエンシングについては、年毎に微生物叢の違いが現れたことを受けて、次年度の野外調査の成果を踏まえて実施する予定である。また、これまで調査してきた氷河とは別の国内雪氷環境から新たに収集した試料を追加で解析するために予算を利用する。
|