研究課題/領域番号 |
22K15191
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
石塚 真太郎 東邦大学, 理学部, 訪問研究員 (50882263)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 父系社会 / 近親交配 / 集団間移籍 / ボノボ / チンパンジー |
研究実績の概要 |
オスが出自集団に留まる「父系社会」は、初期人類などヒト亜科でよく見られる社会である。父系社会の中で、メスは近親交配を回避するために集団間を移籍すると説明される。ところが父系社会の中のメスにかかる近親交配リスクについては、これまで定量的な評価がなされていない。父系社会の中のメスにかかる近親交配リスクは、オスの繁殖の偏りに応じて変動し、その変異はメスの移籍の多様性を生み出している可能性がある。そこで本研究では父系社会を形成し、メスの移籍に多様性が見られるヒト亜科のPan属2種・ボノボとチンパンジーを対象とし、両種のメスの近親交配リスクおよび移籍の頻度について分析を進めている。2022年度はチンパンジーの収集済の糞試料からDNAの抽出を進めた。抽出済みのDNAについて、ホストのDNA量を定量した。抽出DNA試料を用い、実験系の検討をおこなった。マルチプレックスPCRによって常染色体上マイクロサテライト8座位の遺伝子型を分析する実験系を確立した。この実験系に則り、一部の個体の遺伝子型の分析を行った。決定された遺伝子型に基づき、出自集団出身のメスと繁殖可能な年齢差のオスとの間の血縁度を推定した。また、母系血縁の有無について調べるため、ミトコンドリアDNAコントロール領域約1000bpの分析も行った。得られた予備的な結果について、共同研究者や研究協力者と打ち合わせを行い、今後の実験の方針を定めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度はボノボとチンパンジーの両種を対象とし、既存の試料を用いてマイクロサテライトのジェノタイピングの実験系を確立した。また、共同研究者との協働の下、メスの移籍に関する観察データも蓄積できている。以上のことから、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は確立した実験系に則り、両種のマイクロサテライトのジェノタイピングを進めていく予定である。得られた遺伝子型データを解析し、血縁度推定も進めていく。さらに血縁度推定の精度を評価するため、全ゲノム中の一塩基多型の解析についても検討する。また、共同研究者と協力し、メスの移籍に関する観察を継続する。本研究の遂行の上で有益な情報を収集するため、8月に開催される国際霊長類学会にも出席する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大によって学会や研究打ち合わせ参加のための旅費の計上が叶わず、未使用額が生じた。これについては、論文執筆に係る英文校正料や実験の消耗品の購入に使用していく予定である。2023年度はボノボ・チンパンジー両種について、マイクロサテライトのジェノタイピングをおこなう。そのため、分析にかかる消耗品を購入する。分析の上で必要なシークエンス反応については外注委託する。メスの移籍の観察データを得るため、必要に応じてウガンダ共和国で野外調査をおこなう。本研究と関連する研究の動向を調査するため、個体群生態学会や哺乳類学会、国際霊長類学会に参加する。
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