研究課題/領域番号 |
22K15205
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
石井 宏憲 関西医科大学, 医学部, 助教 (30636676)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | サル / 採餌戦略 / 時間制約 / 意思決定 / ドーパミン / セロトニン |
研究実績の概要 |
意思決定には環境の制約条件に合わせて戦略を切替える柔軟性が欠かせない。本計画ではサルが採餌戦略を時間制約に応じてどのように変化させるか、その戦略決定にどのような神経基盤が関与するのか解き明かすことを目的として研究を進めている。初年度は行動実験の確立として制限時間付き訪問採餌課題の開発を行った。サルはボタン押しを使ったボードゲーム様の行動課題を通じて報酬としてジュースの獲得を目指す。ボードの上には報酬量の異なる5つの報酬ボタンが散在しており、サルにはスタートボタンを押してから報酬を回収しつつ、与えられた制限時間内にゴールボタンに辿り着くことが求められる。失敗した場合は回収した報酬は没収される。すなわち時間制限がない時は5つの報酬を全て回収することができるが、時間制限が厳しくになるにつれ報酬の大きさあるいは距離に応じて取捨選択していくことが必要となる課題である。報酬ボタンの配置は毎回異なるため試行前に呈示された制限時間に則した戦略を基本としながらも即応的に行動計画を策定することになる。サルには非常に高度な計画性と判断力が求められるが、現在までに訓練した2頭いずれもが課題の学習に成功した。サルは時間切れを避けるため制限時間に応じて回収する報酬数を増減させたが、その際報酬の大きさと距離の両方を天秤にかけた取捨選択を行っており、サルの経路選択は極めて効率的であることが分かった。またこのような高度な意思決定を支える神経基盤の解明の端緒として、ドーパミンD1型受容体とD2型受容体の阻害薬の全身投与が及ぼす影響についても解析した。前者は特に制限時間が短い条件において行動開始を遅らせチョークさせる運動関連の障害を引き起こした。一方後者は制限時間が緩い条件で行動開始を不必要に早め、選択を非効率化させた。ドーパミンは時間制約下において適切な行動制御するために重要であることが新たに分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は行動実験の確立として制限時間付き訪問採餌課題の開発を行った。サルはボタン押しを使ったボードゲーム様の行動課題を通じて報酬としてジュースの獲得を目指す。ボードの上には報酬量の異なる5つの報酬ボタンが散在しており、サルにはスタートボタンを押してから報酬を回収しつつ、与えられた制限時間内にゴールボタンに辿り着くことが求められる。失敗した場合は回収した報酬は没収される。すなわち時間制限が厳しくになるにつれ報酬の大きさあるいは距離に応じて取捨選択していくことが必要となる課題である。報酬ボタンの配置は毎回異なるため試行前に呈示された制限時間に則した戦略を基本としながらも即応的に行動計画を策定することになる。サルには非常に高度な計画性と判断力が求められるが、現在までに訓練した2頭いずれもが課題の学習に成功した。制限時間条件は、制限なし・Long・Medium・Shortの4条件を用意した。サルは時間切れを避けるため制限時間に応じて回収する報酬数を増減させた。その際報酬の大きさと距離の両方を天秤にかけた取捨選択を行っていた。制限時間よりどれくらい前に採餌を切り上げて終了するかはサルの個体によって異なっていたものの、サル自身が設定した時間内での選択効率(獲得報酬の総量/経路長)は極めて高く、およそ4割の試行で最適ルートを選択していることが分かった。採餌開始前のMAP探索についても視線解析を行うと制限時間毎に異なるサーチパターンを示してた。ドーパミンD1型受容体とD2型受容体の阻害薬の全身投与実験では、前者は特に制限時間が短い条件において行動開始を遅らせチョークさせる運動関連の障害を引き起こした。一方後者は制限時間が緩い条件で行動開始を不必要に早め、選択を非効率化させた。ドーパミンは時間制約下において適切な行動制御するために重要であることが新たに分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画として1)行動データの詳細・多面的な解析、2)セロトニン系関与の再検討、3)電気生理実験、を予定している。 1)行動データの詳細・多面的な解析。現在サルの選択行動を予測するための数理モデルの開発を進めている。またサルは現在頭部非固定状態で訓練を進めているためDeepLabCutを用いて視線トラッキングを行い、あわせて自作のNeural networkを用いて視線推定している。この方法は概ねうまくいっているがさらに精度の向上を目指すことでより詳細な解析ができると思われる。また時間切れを起こした時の表情や制限時間が短い条件で見せる緊張状態など、実験者が感覚的に分かるが数値が難しい指標についても最新の画像解析法を取り入れ進める予定である。 2)セロトニン系関与の再検討。当初セロトニン系の関与を想定していたため、セロトニンの前駆体である5-HTPの全身投与実験も行い一定の効果を観察したものの、効果は試験毎に異なっていた。これは5-HTPが受容体への作用ではなくセロトニンレベルを上昇させる効果を持つものであったことに由来する可能性がある。一方でセロトニンの受容体は膨大なサブタイプが存在し、その一つ一つを検証することは現実的ではない。セロトニンについては情報収集と予備実験で検討を続けつつも、まずは有望なドーパミン系を中心に次の展開へと計画を進める予定である。 3)電気生理実験。計画は当初の計画通り進んでおり、開頭手術を経て電気生理実験へと進む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初初年度に購入予定であったサルの導入を供給数の問題および飼育や訓練に必要な人的資源の都合上23年度以降に変更したため大きな差額が生じている。また購入を予定していたI/Oボードが昨今の半導体不足の問題により入手が遅れている。
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