痛みは生体の警告系として重要であるが、過度な痛みや慢性痛は患者のquality of life (QOL)を著しく下げるため、適切なコントロールが必要である。痛みの調節には脳内で痛み強度を調節する内因性疼痛制御系が関与しており、ノルアドレナリン(noradrenaline)神経核の青斑核や、セロトニン(serotonin)や抑制性神経伝達物質のGABAを含有する神経が存在する吻側延髄腹内側部といった下行性神経核は、脳から痛みの入り口である脊髄へ下行性に投射して痛みのコントロールに重要な役割を果たす。しかしながら、これらの下行性神経核の相互連関については不明な点が多い。本年度は、上記2つの下行性神経核の相互作用とそのメカニズムの解明を目的として研究を行った。吻側延髄腹内側部神経の内、GABA性神経とセロトニン神経にそれぞれ特異的にGCaMPを発現させる実験系を立ち上げ、それぞれの神経でノルアドレナリン処置によるCa応答を調べた。昨年度に見出した解剖学的な結果や電気生理学的検討の結果と一致して、これら両方の細胞でノルアドレナリン処置によるCa応答が観察された。さらにRVMに投射するノルアドレナリン神経に興奮性の人工受容体であるhM3Dqを発現させてRVMに投射するノルアドレナリン神経を活性化させた際の行動学的な解析を実施した。RVMに投射するノルアドレナリン神経の特異的な活動増強は熱に対する逃避行動を優位に抑制し、同回路が熱性の鎮痛に重要な神経回路であることが示唆された。本研究成果は、今後の新しい鎮痛薬開発の足がかりとなると考えている。
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