研究課題/領域番号 |
22K15211
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大輪 智雄 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (80738914)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 神経発生 / 小脳 / 小脳顆粒細胞 / 小脳顆粒細胞前駆細胞 / ロングリードRNAシーケンシング / トランスクリプトーム解析 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
神経前駆細胞は増殖して自身の数を増やした後に、細胞周期を停止・離脱し、神経細胞へと分化する。それは極めて厳密にコントロールされており、多くの場合、増殖性・未分化性を担保する主となる因子も、細胞周期の離脱に関わる主となる因子も、転写因子であることが過去の様々な研究から示されている。これら転写因子を含む、複数のエクソンを持つ遺伝子のうち約95%のものが選択的スプライシングを受けることがヒトでは知られている。つまり、ほとんどの転写因子には、複数のアイソフォームが存在しているのである。しかしながら、多くの研究において、着目している転写因子のアイソフォームを区別した解析がなされていない。 これまでに、申請者は、小脳顆粒細胞前駆細胞(GCP)を神経発生のモデルとして研究を行ってきた。GCPには、①高純度に単離・精製できること、や②培養条件によって増殖性・未分化性の維持または、分化への誘導が容易であること、③生体内で遺伝子操作による機能解析が可能である、という特徴を持つ。 神経細胞の分化を担う因子の機能的多様性をスプライシングアイソフォームの観点から網羅的に解析するために、今回、申請者は、GCPの①と②の特徴を利用し、GCP由来の神経前駆細胞と神経細胞からcDNAを抽出し、ロングリードRNAシーケンシングを実施した。 その結果、約24000個にも及ぶtranscriptsの神経前駆細胞と神経細胞における発現データを得た。これにより、一見、発現量は変わらない遺伝子でも、アイソフォームレベルでは発現が異なっている分子の同定や、アイソフォームレベルで神経発生におけるGene Ontologyの違いを明らかにすることが可能となった。これにより、今まで見過ごされていた神経発生因子の多様な制御機構を見つけることが期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した通り、顆粒細胞前駆細胞および顆粒細胞におけるロングリードRNAシーケンシングは目的通り完了し、大量のtranscriptsの発現データを得ることに成功した。膨大なtranscriptsから、神経発生に重要な因子を一部ピックアップし、顆粒細胞前駆細胞でノックダウンや過剰発現することで、アイソフォーム間における機能の違いを観察している。他にも、アイソフォームの制御や神経発生に関わる因子の基本的な情報を調べ、機能解析をする分子の候補を増やしていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
ロングリードRNAシーケンシングで同定されてきた、神経前駆細胞および神経細胞間において、アイソフォームレベルで発現が異なるtranscriptsに着目し、これまでに申請者が確立してきた、顆粒細胞前駆細胞における遺伝子導入の系を利用して、これらのtranscriptsの分化の影響をより詳細に明らかにしていく。具体的には、分裂と分化への影響、形態形成、移動などが、アイソフォーム間でどのような違いがあるのか観察する。さらに、可能であれば、細胞局在や結合分子などの違いなどにも着目していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
所属機関の移動に伴い、一部の研究準備が遅延し、次年度使用額が生じた。 翌年度分として請求した助成金は、遅延していた実験の試薬や機器に使用する予定である。
|