研究課題/領域番号 |
22K15213
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
塩谷 元 神戸大学, 医学研究科, 学術研究員 (20838338)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 三者間シナプス / アストロサイト / 神経細胞 / 海馬 / 細胞接着分子 / Necl / グルタミン酸輸送体 |
研究実績の概要 |
脳には興奮性と抑制性の2種類の神経細胞があり、その軸索終末がそれぞれ同種または異種の神経細胞の樹状突起と接着して4種類のシナプスを形成する。脳神経回路はこの4種類のシナプスによるネットワークによって形成されている。多くのシナプスはアストロサイト微細突起(PAPs)と接着して相互作用しながら三者間シナプスを形成している。また、この相互作用が恒常的で正確なシナプスの伝達と可塑性に関与している。脳の神経ネットワークを理解する上で、これらの4種類の三者間シナプスを形成する接着分子の同定とその機能を解明することは重要である。本年度は、研究代表者が所属する研究室で開発された生体に極めて近い形態を示すアストロサイトと神経細胞のin vitroの共培養系を用いて、興奮性神経細胞の軸索終末、興奮性神経細胞の樹状突起およびPAPsで形成される三者間シナプスの形成機構を解明して公表した(Development, 2023)。この共培養系において、アストロサイトの突起が細かい分枝を形成するためには、神経細胞から放出されたグルタミン酸と、アストロサイトの代謝型グルタミン酸受容体mGluR5の活性化が関与していた。また、興奮性神経細胞の軸索終末には、ネクチン様細胞間接着分子NeclファミリーであるNecl-3が、アストロサイトのPAPsにはNecl-2が発現して互いにトランスに結合してシナプスとPAPsを接着させていた。さらに、Necl-3にトランス結合したNecl-2はグルタミン酸輸送体であるEAAT1とEAAT2およびカリウムイオンチャネルであるKir4.1などの機能分子をPAPsへリクルートしていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、脳の神経回路において興奮性神経細胞と抑制性神経細胞で形成される4種類のシナプス全ての接着機構や機能の解明を目的としている。これまでに、興奮性神経細胞同士の三者間シナプスについては、論文としてその成果を公表した。残りの3種類のシナプスのうち、抑制性神経細胞同士の三者間シナプスについては、既知の細胞間接着分子の特異的な局在をすでに見出しており、この分子のノックアウトマウスを使用したin vivoとin vitroの解析がほぼ終了している。機能的な解析として、in vitroにおける電気生理学的解析を進めており、予備的なデータは得られている。その他2種類のシナプスについても並行して解析を進め、順調にデータを取得している。したがって、本研究課題は順調に進展しており、期間内に計画を遂行できると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は興奮性神経細胞が抑制性神経細胞の樹状突起に形成するシナプス、また抑制性神経細胞が興奮性神経細胞の樹状突起に形成するシナプスの2種類のPAPsについて重点的に解析を進める。これまでに、いずれのシナプスにおいてもPAPsに特異的に局在する細胞間接着分子をすでに同定しており、それらの分子の機能解析としてノックアウトマウス由来の培養神経細胞やアストロサイトを組み合わせた機能解析を行う。解析に必要なノックアウトマウスを得るための繁殖と交配は計画通りに進んでおり、これらを用いて順次データを取得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究は予想以上に試行実験が順調に進行した為、必要経費が少なく済んだ。 次年度以降、多くの支出が必要となる為、次年度使用額を生じることとなった。 順調に計画が進行すれば3報の新たな論文発表にかかる必要経費、抗体の作製やノックアウトマウスの維持、また必要な試薬や培養用品などの購入に使用する。
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