研究課題/領域番号 |
22K15222
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
川端 政則 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (00907727)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 感覚・運動情報処理 / 大脳皮質 / 電気生理学 / 心理物理学 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、大脳皮質における感覚・運動情報表現の分布を明らかにすることを目的として、感覚・運動情報の定量化に適した新規行動課題(視覚性二段階応答課題)の構築と広範な大脳皮質領域からの神経活動記録を行う。2022年度は10匹のラットから行動課題遂行中に多点電極を用いた神経活動記録を行い、大脳皮質・海馬・視床を含む11領域の合計3万ニューロンからスパイクデータを得た。 脳領域ごとに視覚刺激直後の神経活動における感覚・運動関連情報の分布を調べたところ、外側膝状体(LGN)・一次視覚野(V1)・二次視覚野後部・二次視覚野前部(V2RL/AM)・後頭頂連合野(PPC)の順に感覚関連ニューロンの割合が減少している一方で、V2RL/AM・PPC・二次運動野(M2)・一次運動野(M1)の順に運動関連ニューロンの割合が増加していた。この結果は先行研究と一致しており、慢性広域的神経活動記録の正確性が確認された。 視覚皮質におけるニューロンのスパイク活動はしばしば複数のコンポーネントを含んでいることが知られているため、スパイクデータを基にコンポーネントを検出する解析手法を考案し、課題関連ニューロンに適用してコンポーネントごとの情報表現を調べた。スパイク活動の変化タイミングと刺激や運動のタイミングの時間的な相関による情報表現と発火頻度による情報表現をそれぞれ調べたところ、時間的には感覚に関連しているが発火頻度では運動に関連しているコンポーネントを持つニューロンがV2RL/AMに多く存在していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感覚・運動情報表現の定量化のために新規に構築した視覚性二段階応答課題を10匹以上のラットに訓練し行動解析を行った結果、視覚刺激のコントラストと動物の応答率が比例しつつ動物の応答率と反応時間の強い相関がみられ、行動課題が設計通りに作用していることが明らかとなった。さらに、長いホールド時間を要求する試行を混ぜたことによる予測性応答の減少や刺激強度とリプッシュ率の逆相関なども確認され、当初に想定していた以上に良い行動課題であることが明らかとなった。 神経活動解析においては、感覚・運動関連ニューロンの分布が先行研究と一致していたことから記録部位同定の正確性が示されたとともに、V2RL/AMは視覚野でありながら運動関連ニューロンも存在することが明らかとなった。新たに考案した神経活動のコンポーネント分割法も正しく機能し、時間的な情報表現と発火頻度による情報表現において別々の情報に関連しているコンポーネントを持つ複合的ニューロンが存在することが明らかとなった。さらに、持っているコンポーネントの種類によってニューロンを分類したところ、発火頻度が高いものと低いものをそれぞれ交互に複数個持っている振動性のニューロンが視覚皮質に多く存在することが明らかになった。特にV2RL/AMやPPCにおける振動性ニューロンは、感覚関連と運動関連のコンポーネントを両方とも含んでいた。 複合的ニューロンや振動性ニューロンの発見は当初に想定していた以上の成果であり、今後感覚・運動変換のメカニズムをモデル化していく上で非常に大きな要素となり得る。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに発見した複合的な情報表現を持つニューロンは、感覚・運動変換における中間過程に関与していると考えられるため、注意や集中などの動物の内部状態の強く影響を受けていると考えられる。来年度以降は応答率・リプッシュ率・瞳孔サイズの時間変動などから動物の内部状態の推定を行い、こうしたニューロンの性質をより深く調べる予定である。 また、同様に発見した振動性ニューロンは周期的な神経活動と関連していると考えられるため、局所フィールド電位(LFP)の解析を行う予定である。刺激条件ごとにパワーを比較することでLFPの情報解析を行なったり、同時記録した領域間のグレンジャー因果性を求めることで情報の流れを解析したりすることを計画している。 並行して、2024年度以降に計画している多点電極の埋め込みによる慢性記録実験系の構築を行う。RJJ van Daal et al.,2021やAL Juavinett et al.,2019を参考に3Dプリンターでホルダーを作成し、電極の再利用が可能で自由な角度で複数本の電極が刺入可能な実験系を構築したいと考えている。
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