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2022 年度 実施状況報告書

プロスタグランジンE2による神経活動持続的抑制の生理機能解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K15225
研究機関名古屋大学

研究代表者

向井 康敬  名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (30908124)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2024-03-31
キーワード青班核ノルアドレナリン神経 / プロスタグランジンE2 / ストレス / 神経修飾 / 睡眠覚醒 / EP3受容体 / 陰イオンチャネルロドプシン / 光遺伝学
研究実績の概要

一時的なストレスを受けると、我々は数時間~数日間の持続的な「調子の悪さ」を経験する。この持続的な調子の悪さの原因は、数時間~数日間にだけ生じる「持続的な神経活動の変化」ではないだろうか? 研究代表者はこれまでに、マウス急性脳スライス標本にストレス関連物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)を2分間投与すると、注意覚醒の惹起に重要な青斑核ノルアドレナリン神経(LC-NA神経)の活動が60分間以上持続的に抑制されることを発見した。この時間スケールの対比は、一時的なストレス受容後の持続的な「調子の悪さ」と類似している。そこで本研究ではPGE2による神経活動調節の「持続性」に着目し、神経活動の持続的な抑制がどのような生理機能に重要であるか解明を目指している。
本年度は、プロスタグランジンE2(PGE2)によるLC-NA神経活動の持続的な抑制が、どのような生理機能に重要かを解明するため、PGE2による持続的な抑制に重要な3型PGE2受容体(EP3R)をLC-NA神経特異的にノックアウトしたマウス(cKO)と、同腹の野生型マウス(WT)を用いて実験を行った。半日以上持続的に睡眠覚醒行動を変化させる炎症性ストレスとして働くリポ多糖(LPS)を腹腔投与し、cKOとWTの睡眠覚醒行動への影響を調べた。その結果、いずれの遺伝子型も睡眠時間の増大が観察されたものの、cKOとWTの間で明確な違いは観察されなかった。
また、光遺伝学的手法によってLC-NA神経活動を持続的に抑制可能なマウスの開発を行った。青色光照射によって開口する陰イオンチャネルのACR2を、組み換え酵素Cre依存的に発現する遺伝子改変マウス(LSL-ACR2マウス)を共同研究により作出し、Creマウスとの交配によりLC-NA神経でACR2を発現するマウスを得た(NAT-ACR2マウス)。そして脳スライスおよび生体内における機能確認を行った(Mukai et al. 2023)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

令和4年度の当初の研究計画では、ストレス負荷無・有の各条件で生理機能測定を行い、cKOマウスとWTマウスの間で差の生じる生理機能を探索することとしていた。研究実績の概要で示したように、半日以上持続的に睡眠覚醒行動を変化させる炎症性ストレスとして働くリポ多糖(LPS)をcKOマウスとWTマウスそれぞれに腹腔投与し、睡眠覚醒行動への影響について、腹腔投与前日の平常状態との比較、およびcKOマウスとWTマウスの間の比較を行うことができた。さらに当初の研究計画の内容に加えて、光遺伝学的手法によってLC-NA神経活動を持続的に抑制可能なマウスの開発を行った。脳スライス標本の電気生理学的記録、および生体における行動実験により、開発したマウスで発現する光駆動タンパク質(陰イオンチャネルロドプシン)の機能評価を行った上で、研究成果をまとめて論文として発表することができた(Mukai et al. 2023)。以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

令和4年度に行った研究では、EP3受容体によるLC-NA神経活動の持続的な抑制が関与すると考えられる新たな行動を見出すことはできなかった。そこで今後は、研究代表者がこれまでに発見していた、拘束ストレス負荷後の尾懸垂試験におけるcKOマウスとWTマウスの差異に着目して研究を推進する。cKOマウスとWTマウスの間でLC-NA神経活動に差異が存在するかどうかを、生体内で神経活動を測定可能なファイバーフォトメトリー法によって調べる。cKOマウスおよびWTマウスそれぞれのLC-NA神経に、アデノ随伴ウイルスベクターを注入してカルシウム指示タンパク質であるG-CaMP6を発現させる。続いて、青班核の近傍に光ファイバーカニューレを留置する。個体を十分に回復させた後、蛍光観察用の光ファイバーを取り付けた上で、自由行動・拘束・尾懸垂試験のそれぞれを行なっている間のLC-NA神経活動を測定する。以上により、実際の生体内におけるPGE2によるLC-NA神経活動の持続的抑制の有無、およびその生理機能解明を目指す。

次年度使用額が生じた理由

研究室の補助によりマウス飼育に必要な経費などの一部を削減できた。また新型コロナウイルス感染症濃厚接触者となり学会を急遽オンライン参加とするなどしたため、確保していた予算を使用し切れなかった。以上の理由により、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、追加実験により当初の予定よりも多額の出費が見込まれることから、次年度に全て使用予定である。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件)

  • [雑誌論文] Cre-dependent ACR2-expressing reporter mouse strain for efficient long-lasting inhibition of neuronal activity2023

    • 著者名/発表者名
      Mukai Yasutaka、Li Yan、Nakamura Akiyo、Fukatsu Noriaki、Iijima Daisuke、Abe Manabu、Sakimura Kenji、Itoi Keiichi、Yamanaka Akihiro
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 13 ページ: -

    • DOI

      10.1038/s41598-023-30907-2

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Functional roles of REM sleep2023

    • 著者名/発表者名
      Mukai Yasutaka、Yamanaka Akihiro
    • 雑誌名

      Neuroscience Research

      巻: 189 ページ: 44~53

    • DOI

      10.1016/j.neures.2022.12.009

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Primary motor cortex drives expressive facial movements related to reward processing in mice2022

    • 著者名/発表者名
      Li Wanru、Nakano Takashi、Mizutani Kohta、Kawatani Masahiro、Matsubara Takanori、Danjo Teruko、Mukai Yasutaka、Yamanaka Akihiro、Ito Hikaru、Aizawa Hidenori、Petersen Carl C. H.、Yoshimoto Junichiro、Yamashita Takayuki
    • 雑誌名

      bioRxiv

      巻: - ページ: -

    • DOI

      10.1101/2022.10.28.514159

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Functional Interaction Between GABAergic Neurons in the Ventral Tegmental Area and Serotonergic Neurons in the Dorsal Raphe Nucleus2022

    • 著者名/発表者名
      Rahaman Sheikh Mizanur、Chowdhury Srikanta、Mukai Yasutaka、Ono Daisuke、Yamaguchi Hiroshi、Yamanaka Akihiro
    • 雑誌名

      Frontiers in Neuroscience

      巻: 16 ページ: -

    • DOI

      10.3389/fnins.2022.877054

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Long-term in vivo calcium imaging in orexin neurons with optogenetic activation of dopamine neurons2023

    • 著者名/発表者名
      飯嶋大右、向井康敬、山中章弘
    • 学会等名
      日本生理学会 第100回記念大会
  • [学会発表] Generation and in vivo functional evaluation of novel ACR2 reporter mice2023

    • 著者名/発表者名
      中村明代、向井康敬、李妍、深津紀暁、飯嶋大右、阿部学、﨑村健司、井樋慶一、山中章弘
    • 学会等名
      日本生理学会 第100回記念大会
  • [学会発表] 青斑核ノルアドレナリン神経活動を持続的に抑制するプロスタグランジンE2の生理機能2022

    • 著者名/発表者名
      向井康敬、ラザルス・ミハエル、永井健治、田中謙二、山中章弘
    • 学会等名
      Neuro2022
  • [学会発表] 光遺伝学を用いてドーパミン神経を活性化させた時のオレキシン神経の長時間in vivoカルシウムイメージング2022

    • 著者名/発表者名
      飯嶋大右、向井康敬、山中章弘
    • 学会等名
      Neuro2022
  • [学会発表] オレキシン神経の活動記録と睡眠中の活動の役割2022

    • 著者名/発表者名
      伊藤洋人、深津紀暁、ラハマン・セイク・ミザン、伊澤俊太郎、向井康敬、小野大輔、Kilduff Thomas、山中章弘
    • 学会等名
      Neuro2022
  • [学会発表] 社会的敗北ストレスによって誘導される行動変容における前頭前皮質オキシトシン受容体発現ニューロンの生理機能2022

    • 著者名/発表者名
      犬束歩、向井康敬、吉田匡秀、高柳友紀、山中章弘、尾仲達史
    • 学会等名
      Neuro2022

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公開日: 2023-12-25  

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