一時的なストレスを受けると、我々は数時間~数日間の持続的な「調子の悪さ」を経験する。この持続的な調子の悪さの原因は、数時間~数日間にだけ生じる「持続的な神経活動の変化」ではないだろうか? 研究代表者はこれまでに、マウス急性脳スライス標本にストレス関連物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)を2分間投与すると、注意覚醒の惹起に重要な青斑核ノルアドレナリン神経(LC-NA神経)の活動が60分間以上持続的に抑制されることを発見した。この時間スケールの対比は、一時的なストレス受容後の持続的な「調子の悪さ」と類似している。そこで本研究ではPGE2による神経活動調節の「持続性」に着目し、神経活動の持続的な抑制がどのような生理機能に重要であるか解明を目指した。 最終年度は行動中の神経活動測定を行った。PGE2による神経活動の持続的な抑制に重要な3型PGE2受容体(EP3R)をNA神経細胞特異的にノックアウトしたマウス(cKO)と、同腹の野生型マウス(WT)を用いて実験を行った。研究代表者はこれまでに、拘束ストレス負荷後の尾懸垂試験で、うつ様行動の指標である不動時間が、cKOマウスにおいてWTマウスよりも長いことを発見していた。そこでcKOマウスとWTマウスの間でLC-NA神経活動に差異が存在するかどうかを、生体内で神経活動を測定可能なファイバーフォトメトリー法によって調べた。その結果、cKOマウスのカルシウム信号強度はWTマウスよりも大きかった。この結果から、NA神経細胞のEP3Rは生体内においてもLC-NA神経活動を抑制している可能性が示された。 本研究では、これまでスライス実験で確認していたLC-NA神経活動のPGE2による持続的な抑制が、心理的ストレス負荷後の実際の生体内でも生じていることを見出した。この結果から、PGE2によるLC-NA神経活動の持続的な抑制が、心理的ストレス負荷後の行動への影響を緩和する機能を持つ可能性が示唆された。
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