研究実績の概要 |
私はこれまでに嗅皮質の一部であるventral tenia tecta(vTT)という亜領域が高次領域であるmedial prefrontal cortex(mPFC)から解剖学的な直接入力を受けていること、またvTTの個々の神経細胞が、文脈に依存した様々な行動状態に対して応答することを明らかにした (Shiotani et al.,2020)。またこれまでに、mPFCを中心とした回路で文脈情報が作られていることもわかっている(Hyman et al., 2012)。それらのことから、末梢の嗅球(olfactory bulb)からの入力と高次領域のmPFCからの入力の両方を受けるvTTは、感覚情報と文脈情報を統合する重要な場であることが容易に想像できる。そこで本研究は、文脈に応じて感覚情報を正しい行動に結びつける神経メカニズムを明らかにするために、末梢からの感覚情報と高次領域からの文脈情報がvTTで統合され行動につながるための神経回路を解明することをめざした。具体的には、単一ニューロン活動記録法と光遺伝学的手法を組み合わせることで、mPFCからvTTへ行動状態の情報が伝達されることを明らかにし、さらにその際のvTTの応答特性を詳細に解明することを目的とした。 マウスが匂いから適切な行動を取るように、匂いと報酬の有無を連合させた嗅覚古典的条件付け課題の訓練を行った。訓練後、マウスが行動課題遂行中に、mPFCからvTTへと投射するmPFC神経細胞の軸索を特定のタイミングで光抑制し、その際のvTTの活動を記録することで、mPFCからvTTに行動状態の情報が送られるのかどうかを明らかにした。結果として、これまでの自身の研究で見られたように、嗅覚古典的条件付け課題においてもvTTの神経活動は、光抑制を行わない条件では文脈に依存した様々な行動に対して応答する神経細胞が見られた。
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