研究実績の概要 |
本研究では、申請者が独自に開発した新規RAS阻害剤の改良と作用機序の解析に取り組む。RASは全がんの約20~30%で活性型に変異している極めて重要ながん治療標的であるが、従来の技術では阻害剤を作ることが困難なundruggable target(創薬不可能標的)の代表例とされている。申請者が開発したRAS阻害剤の最大の特色は、従来の創薬分子や次世代医薬品のどれとも異なる「細胞膜透過性タンパク質」であるという点である。すなわち、本剤は分子量が1万Daを超える高分子量タンパク質であるにも関わらず、細胞膜を透過し細胞内に存在するRASに到達し阻害することが可能である。具体的な構造は、RASに結合する部位と細胞膜透過性ペプチドの2ドメインであるが、これに活性を高める第3ドメインなども付与したキメラタンパク質である。本剤は細胞・マウスモデルいずれでも阻害効果を示しており、抗がん剤としての実用化に向けた準備は整っている(T. Nomura et al., Cell Chem. Biol., 2021)。 本研究では、まず「①本剤の合成展開」と「②他抗がん剤との併用効果の検証」を介して、抗がん作用のさらなる増強を目指す。同時に、本剤を「③がん病態を忠実に再現するマウスモデルでも評価」することで、臨床応用を目指したデータを取得する。本研究の完成によって新規抗がん剤の実用化を推進するとともに、他のundruggable targetを標的とした細胞膜透過性タンパク質への知見を得ることを目指したい。
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