本研究ではキラル光学特性と分子構造の関連性を計算化学を用いて明らかとした。 キラル化合物は右巻きまたは左巻きの円偏光のうち、どちらか一方を過剰に含む光を発する。この現象を CPL (円偏光発光) といい、多彩な応用可能性から近年大きな注目を浴びている。高いCPL活性を示すためにはどのようにすればよいか、その理論は、化合物の励起状態の磁気遷移双極子モーメント (m) と電気遷移双極子モーメント (μ) を用いた関係式から、よく理解されている。それにも関わらず、理論を実際の分子構造にどう反映すればよいか、その分子設計の指針はこれまで不透明であった。 本研究では一連の蛍光色素群を合成し、その分子構造のねじれと、分子が励起した時に瞬間的に流れると予想される電流に着目した。その結果、電流の方向性・ねじれ度合いと、CPL活性の関連付けに成功した。すなわち、磁気遷移双極子モーメント (m) はとくに有機小分子のCPL活性の向上の鍵となる要素で、電流は理論式中の磁気遷移双極子モーメント (m) と関係する。本研究で対象とした分子は、分子構造から視覚的に磁気遷移双極子モーメント (m) を予想できた。これは、ある種の分子では、CPL の原理を分子構造に翻訳できることを示しており、本考え方は根本的な分子設計を提案する新たな指針のひとつとなると考えている。 次に、蛍光色素を超分子化学的に積層化するため、ペプチド鎖を有する蛍光色素を合成した。合成した蛍光色素は、時間経過に伴い色の変化が観察されるなど、分子集合に関すると考えられる興味深い挙動を示した。また溶液の液性によって、色変化の過程に違いが見られた。
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