研究実績の概要 |
本研究では、肝臓特異的な自己免疫疾患である原発性胆汁性肝硬変(PBC)の病態メカニズムをPBCの自己抗原 (AMA抗原) のエピトープから明らかにする。令和4年度は、患者体内に存在する抗原からエピトープを直接特定するための手法の構築に取り組んだ。特定にはタンパク質の相互作用部位の特定に使われる架橋質量分析法を用いた。具体的には、エピトープの配列情報が既知の抗原 (TNFα、HER2、PD1) とそれぞれの対応抗体 (Adalimumab, Infliximab, Trastuzumab, Pertuzumab, Nivolumab) を用いてモデル抗原-抗体複合体を作製し、その複合体にスペーサーアーム長の異なる3種の架橋剤(BS3, BS2G, CDI)を添加した。架橋形成後、トリプシン消化によって得られたペプチドをnano-LC-MS/MS で解析し、得られた架橋ペプチド (抗原-架橋剤-抗体からなるペプチド)から既知のエピトープが特定できるか確認し本法の有用性を評価した。 形成される架橋ペプチドは、架橋剤のスペーサーアームの長さと関連しており、intraペプチド(タンパク質分子内)はスペーサーアーム長の長いBS3で、interペプチド(抗体内または抗体と抗原の間)はスペーサーアーム長の短いCDIで形成されることがわかった。抗体-抗原間ペプチドからエピトープ候補ペプチドを同定し、アミノ酸配列を文献と比較したところ、PD-1-nivolum ab以外の複合体でエピトープを含むペプチドを同定することができた。また、この方法では比較的分子量の大きい抗原のエピトープ特定に適していることが分かった。今後は、免疫複合体モデルを患者血清に添加し、夾雑成分の妨害を受けることなく既知のエピトープを選択的に検出できるか確認し、手法の有用性を評価する。
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今後の研究の推進方策 |
産休・育休からの復帰後に患者血清での有用性評価を行い、本法の有用性の評価を行う。その後、構築したエピトープ特定法を用いて研究代表者が先行研究で検出した 3 つの AMA 抗原 (PDC-E2, OADC-E2, E3BP) におけるそれぞれのエピトープを特定する。これを複数名の PBC 患者で同様に行い、得られたエピトープについて患者間の共通性・多様性を調べる。さらに、特定した AMA 抗原のエピトープ部分にどのような異常が起こっているかを、質量分析装置による翻訳後修飾解析で調べる。ここでは、体内で起こりうる修飾 (リン酸化、メチル化、アセチル化など) に加え、医薬品や化粧品、食品添加物、タバコ等に含まれる化合物などの環境因子による修飾 (約 300 種類) による分子量増加を加味した修飾データベースを作製し、これらの修飾がエピトープ部分に起こっているか調べる。 次に、特定した翻訳後修飾を特異的に認識する抗体を作製し、実際にこれらの修飾が患者体内で起こっているかを ELISA 法により確認する。その後、特定した異常な翻訳後修飾を起こしうる環境因子を患者背景 (医薬品服用歴、喫煙歴など) から特定し、エピトープの異常な修飾とこれらの環境因子の曝露に相関があるか調べ、病態への関連性について評価する。
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