本研究は、「エレクトロスピニング (ES) 法を新規吸入粉末剤調製法として応用するための製剤設計基盤構築」を目的としている。ES法吸入粉末剤 (DPI) 調製技術の幅広い汎用性とin vivo 有効性を証明し、実用化への道筋をつけることを最終目標とした。加えて、ES法DPI調製工程が肺送達性と薬物安定性に影響するファクターの解明を試みた。 ES法DPI調製技術の有用性を実証するため、α-キモトリプシン (α-Chy) およびプラスミドDNA (pDNA) をモデル薬物として用い、ES法DPIを調製した。その結果、未処理のα-Chy溶液と比較して、α-Chy含有ES法DPIは95%以上の活性を維持しつつ、製剤化することに成功した。対照群としてネブライザー処理したα-Chy吸入液剤は、活性が60%未満まで低下した。この結果は、ES法が熱やせん断ストレスに弱い医薬品に対する有用な製剤化技術であることを示唆している。さらに、pDNA含有ES法DPIをマウス肺内へ投与した結果、優れた遺伝子導入を確認した。以上より、ES法DPI調製技術の高い汎用性とin vivo 有効性を実証することに成功した。ES法DPI調製工程の重要ファクターを探索した結果、薬物を安定にDPI製剤化するためには、粉砕時間の短縮が重要であることを見出した。そこで、粉砕補助剤として医薬品添加物として採用実績のある糖類をナノファイバーマットに組み込むことで、ナノファイバーの柔軟性を低下させ、解砕性の向上を試みた。その結果、DPI製剤化のために必要な粉砕時間は15秒以内と極めて短時間の粉砕工程でナノファイバーをDPI製剤化することに成功し、薬物を安定に製剤化することができた。
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