研究課題/領域番号 |
22K15268
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
木口 裕貴 神戸薬科大学, 薬学部, 特任助教 (40845880)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 抗体 / 試験管内親和性成熟 / 枠組み配列 |
研究実績の概要 |
免疫測定法はバイオメディカル研究や臨床検査に不可欠の超微量定量法であり、ウイルス感染のモニタリングにも欠かせない。その感度を担保するうえで測定対象物 (抗原) に対する高親和力抗体が必須であるが、今日、抗体の構造を遺伝子レベルで改変することによりその創製が可能と期待されている。その戦略は抗体可変部ドメインのうち、抗原と直接相互作用する相補性決定部 (CDR) のアミノ酸をランダムに置換した分子集団 (ライブラリー) を構築し、改良型変異体を探索することが主流であった。ところが申請者は最近、変異導入の標的として顧みられなかった枠組み領域 (FR) の一部に数残基のアミノ酸を挿入することで抗体の親和力が増大することを発見した。そこで、新たな抗体創製戦略の可能性を探求すべく、"FRへアミノ酸を挿入する" アプローチの有用性を評価する本研究を企てた。その流れはライブラリーを作製したのち、独自に開発したclonal array profiling (CAP) 法から派生した「解離非依存型CAP法」を用いて高親和力クローンの検索を行う。本法は、ジスルフィド結合を介して抗原を固定化したマイクロプレートを用いることで、酸や塩基性条件下でも抗原から解離しないクローンを強制的に回収できるよう、元のCAP法を改良したものである。この方法を用いて、コルチゾールに対する野生型一本鎖Fvフラグメント (scFv) の最もN末端に位置するVH-FR1にアミノ酸を挿入したライブラリーから高親和力変異scFvを検索したところ、野生型scFvから結合定数 (Ka) が30倍以上向上したクローンが複数得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記 (研究実績の概要) の通り、VH-FR1へアミノ酸を挿入したライブラリーから高親和力クローンの獲得に成功した。すなわち、野生型scFvのVHの6番と7番の間に1-3個または6個のランダムなアミノ酸を挿入したライブラリー (いずれも約3×10E6クローンから成る) から無作為に4700クローンを選択し、解離非依存型CAP法に付したところ、そのKaが野生型scFvのKa [3.6×10E8 (1/M)] より31-61倍も改善された高親和力変異scFvが計6種得られた。なお、4個または5個挿入したライブラリーについては以前探索を終えており、同様に良好な結果が得られている。今回得られた6種の変異scFvのうち、Kaが2×10E10 (1/M) に達した2種 (n1#260、n6#52) について、コルチゾール-ウシ血清アルブミン結合体を固定化したプレートを用いる競合ELISAを行った。その結果、50%阻害値の比較でいずれも野生型scFvよりも60倍以上高感度な検量線が得られた。「FRへのアミノ酸挿入」が有効である一例を示すことができたと考えられ、今のところ順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、可変部に存在する4つのFRのそれぞれについて、N末端側、中心付近、C末端側をおよそ等間隔に分けた3点、計12点の挿入ポイントを設定する。そのいずれか1カ所へ、1-6残基のランダム化されたアミノ酸を挿入し、上記と同様に高親和力クローンを検索する。今後はまず、上記でも取り扱った、コルチゾールに対する野生型scFvのVH-FR1の中心付近にアミノ酸を挿入したライブラリーを探索する。具体的には、ベータヘアピン構造を形成している15番と16番の間を標的部位とする予定である。抗原結合能が上昇した変異体については速やかに挿入配列を解析し、分子モデリングなども駆使して、親和力の向上に寄与したアミノ酸の特定も試みる。4カ所のFRの探索が終了次第、他のハプテンに対するscFvについても同様の実験を行い、本戦略の汎用性を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほとんどの額を使用したが、補助金を有効活用するため次年度使用額とすることとした。次年度に必要となる試薬を購入することで、有効に活用する計画である。
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