免疫測定法はバイオメディカル研究や臨床検査に不可欠の超微量定量法であり、ウイルス感染のモニタリングにも欠かせない。その感度を担保するうえで測定対象物 (抗原) に対する高親和力抗体が必須であるが、今日、抗体の構造を遺伝子レベルで改変することによりその創製が可能と期待されている。その戦略は抗体可変部ドメインのうち、抗原と直接相互作用する相補性決定部 (CDR) のアミノ酸をランダムに置換した分子集団 (ライブラリー) を構築し、改良型変異体を探索することが主流であった。ところが申請者は最近、変異導入の標的として顧みられなかった枠組み領域 (FR) の一部に数残基のアミノ酸を挿入することで抗体の親和力が増大することを発見した。そこで、本研究では抗体創製戦略としての「FRへのアミノ酸挿入」の可能性を探るべく、独自に開発したclonal array profiling (CAP) 法から派生した解離非依存型CAP法を用いて、アミノ酸挿入ライブラリーから高親和力クローンの検索を行った。解離非依存型CAP法は、ジスルフィド結合を介して抗原を固定化したマイクロプレートを用いることで、酸や塩基性条件下でも抗原から解離しないクローンを強制的に回収できるよう、元のCAP法を改良したものである。対象としてコルチゾールに対する野生型一本鎖Fvフラグメント (scFv) の最もN末端に位置するVH-FR1にアミノ酸を挿入したライブラリーを構築し、解離非依存型CAP法に付した。その結果、挿入位置を6番目と7番目のアミノ酸の間としたライブラリーからは野生型よりも結合定数が30倍以上向上したクローンが複数得られた。一方で、15番目と16番目の間では高親和力scFvは得られなかったことから、VH-FR1ではN末端側へのアミノ酸挿入が親和力向上に有効である可能性が示唆された。
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