研究実績の概要 |
本研究計画の最初段階として、B細胞由来の細胞株間において、PS合成酵素の阻害による生存・増殖能への影響にはバリエーションがあることを見出していた。例えば、バーキットリンパ腫由来の細胞株(Ramos)やびまん性大細胞型リンパ腫由来の細胞株(SU-DHL-6, SU-DHL-2)の増殖・生存能はPS合成の阻害によって強く抑制される一方で、プレ/プロB細胞に由来する細胞株(NALM-6, RS4;11)では殆ど増殖抑制がみられない。このようなPS合成阻害に対する感受性の差異を規定する分子として、本研究ではB細胞、ならびにB細胞リンパ腫が有する特異的な生存機構であるB細胞受容体(BCR)に着目した。BCRはB細胞の成熟段階に応じて発現・シグナル伝達が制御される分子であり、そのシグナル伝達におけるPS合成系の機能を明らかにすることで、B細胞分化段階におけるPS合成系の意義へとアプローチできると考えた。本研究の成果として、1)PS合成系の抑制によって形質膜におけるホスホイノシタイドプールが増大すること、2)その結果、BCR-PLCγ2によるカルシウム応答が著しく亢進すること、3)異常に亢進したカルシウムシグナルがB細胞リンパ腫に細胞死を誘導すること、を明らかにした。また、詳細な分子機構としてPS合成系によるBCRシグナルの制御にはオルガネラコンタクトサイトにおけるリン脂質の交換輸送が重要であることを見出し、特に形質膜-小胞体膜のコンタクトサイトにおいてホスファチジルイノシトールとホスファチジン酸の交換輸送を担うNir2ならびにNir3について、PS合成系との間に新たなリンクを明らかにした。
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