研究課題
①LPLAT7/LPGAT1欠損マウスの網膜変性に関する表現型の詳細な解析を実施した。これまで全身性にLPLAT7/LPGAT1欠損したマウスにおいて進行性の網膜変性をきたすことを見出していたが、LPLAT7/LPGAT1は全身の組織に発現することから網膜変性の要因が網膜自体に発現するLPLAT7/LPGAT1が重要なのか不明であった。網膜特異的にLPLAT7/LPGAT1を欠損するマウスを作出し、網膜組織の観察を行ったところ、網膜特異的欠損マウスにおいても全身性と同様の網膜変性が観察されたことから網膜変性の原因は肝臓などの他の組織からのステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の供給不全ではなく、網膜組織自体でのLPLAT7/LPGAT1によるステアリン酸含有リン脂質の形成が重要であることがわかった。また、網膜組織において様々な細胞種のマーカー分子の免疫染色を行なったところ、多くのマーカー分子の発現や局在には異常は認められなかったが、視細胞が特異的に発現しているロドプシンの局在異常が組織変性が観察されはじめる生後3週齢より前の段階において観察された。このことからLPLAT7/LPGAT1を欠損した視細胞ではロドプシンの局在化や細胞内輸送系全般に異常が生じている可能性が示唆された。②特異的脂質近傍分子同定に向けたツール検討においては様々な構造を有するアルキン脂肪酸やアジド脂肪酸のリン脂質への取り込みを検討し、特定のリゾリン脂質アシル基転移酵素(LPLAT)に認識される脂肪酸アナログと対応するLPLAT分子の組み合わせを複数見出した。③新規PLA分子の探索においてはAdipoRの近縁分子であるPAQRファミリー分子のいくつかが過剰発現時に細胞内リゾリン脂質を上昇させる現象を見出し、PAQRファミリー分子が新規のリン脂質代謝酵素である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
LPLAT7/LPGAT1の欠損による網膜変性は網膜組織自体、特に視細胞に発現するLPLAT7/LPGAT1が作り出すステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の低下が表現型に寄与していると想定された。また、視細胞の細胞死による変性に先駆けて、視細胞において重要なロドプシンなどの細胞内局在の異常が見出され、細胞内輸送系とステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の関連を新たに見出すことができた。脂肪酸アナログを用いた解析系はやや進行が遅れているが特定のLPLAT分子に認識される脂肪酸アナログの候補を見出すことができた。新規PLA分子の探索においては培養細胞を用いた過剰発現系でPAQRファミリーの複数分子が強力なリゾリン脂質の蓄積能を有することを見出せた。またジアシル型リン脂質の脂肪酸分子種にも大きな影響がみられたことからPAQRファミリー分子はリン脂質代謝に関わる新規因子として非常に有望であることが明らかとなった。
LPLAT7/LPGAT1欠損マウスの網膜変性の解析においては細胞内輸送系とステアリン酸(C18:0)含有リン脂質の関連が示唆されることから細胞内輸送系の機能評価を行う共にLPLAT7/LPGAT1が産生するステアリン酸(C18:0)含有リン脂質がどのような点に関わるのか解明を目指す。また細胞内輸送や細胞機能に関連したオルガネラの形態や機能を評価する目的として電子顕微鏡による解析を実施する。脂肪酸アナログを用いた解析系では生細胞におけるクリック反応、光架橋反応を検討し、特定の脂肪酸アナログを用いて近傍タンパク質の修飾が可能か検証するとともに特定のLPLAT分子近傍タンパクの同定を目指す。当初は探索的な位置付けとしていた新規PLA分子の解析であったが、予想外にPAQRファミリー分子がリン脂質の脂肪酸種規定に大きな影響を与える因子であることが想定されるため、研究対象の拡充を進める。培養細胞を用いた過剰発現系や機能抑制系において詳細なリン脂質分子種解析を実施し、リン脂質脂肪酸種決定への寄与を明らかにする。また、リコンビナントタンパク質を用いた生化学的な解析により直接的なPLA活性の特徴付けを実施する。また、ゼブラフィッシュを用いて欠損動物の作出を行い、生化学的な解析から個体レベルでの機能解析への展開を目指す。
実験方法の検討により探索研究おける消耗品の消費が予想より大幅に抑えられたことで見込みより消耗品に当てる費用が減ったために次年度使用額が生じた。次年度以降には研究範囲の拡大を予定しているため、消耗品を含めかかる費用等が増えることが予想され、次年度使用額も含めた使用計画を予定している。
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