研究課題
本研究では,特にS2領域を新規エピトープに持つSARS-CoV-2中和抗体に着目し,その抗体によるスパイクタンパク質の認識機構を詳細に解析し,感染阻害活性の発現メカニズムを明らかにすることを目的とする.我々はこれまでに武漢型と変異株のSARS-CoV-2の間でアミノ酸変異が少ないRBD領域,S2領域をエピトープとする複数のマウスモノクローナル抗体(CvMab-6,-62)を同定している.そこで今年度は,これらの抗体において,武漢型および変異型スパイクタンパク質を発現する組換えシュードタイプウイルスを作製し,中和活性を評価した.また,SARS-CoV-2スパイクタンパク質への親和性を確認するために,武漢型および変異型スパイクタンパク質を過剰発現させたHEK293T細胞を用いて,各種スパイクタンパク質への反応性をWestern Blotting,免疫蛍光染色にて評価した.さらに2種類の抗体と武漢株およびオミクロン株の3量体組換えスパイクタンパク質との結合親和性をELISA法にて評価した.抗S2抗体であるCvMab-62は,抗RBD抗体CvMab-6と比較して,武漢型シュードタイプウイルスに対する中和活性が高かった.しかしながら,CvMab-62の中和活性は,変異型シュードタイプウイルスでは中和活性が減弱する傾向が確認された.一方で,CvMab-62はオミクロン型を含めた変異株スパイクタンパク質を認識し,武漢株およびオミクロン株いずれにおいても,CvMab-6よりも10倍以上Kd値が低く,スパイクタンパク質との親和性が高いことが明らかとなった.以上の結果から,S2領域を標的としたCvMab-62は,スパイクタンパク質との結合親和性を向上させることにより,中和活性を増強させた可能性が示唆された.
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は,S2領域を新規エピトープに持つSARS-CoV-2中和抗体に着目し,その抗体によるスパイクタンパク質の認識機構を詳細に解析し,感染阻害活性の発現メカニズムを明らかにすることである.今年度の研究では,抗S2抗体CvMab-62のシュードタイプウイルスにおける中和活性を評価し,武漢型においてCvMab-62がCvMab-6よりも中和活性が高いことを見出した.さらに武漢株およびオミクロン株いずれにおいても,スパイクタンパク質との親和性が高いことが明らかとなった.しかしながら,その中和活性は変異型シュードタイプウイルスでは減弱する傾向が確認された.今後は,抗S2抗体のスパイクタンパク質への結合親和性の増強に着目し,抗S2抗体を基本とした抗体の組み合わせを評価し,感染阻害活性への影響を中心に検討を進めていく予定である.
次年度は,予定通りスパイクタンパク質と抗S2抗体との結合能を表面プラズモン共鳴技術を用いたBiacoreによる分子間相互作用解析にて評価する予定である.また,CvMab-62のSARS-CoV-2ウイルス自体に対する感染阻害活性の評価を行う予定である. さらに,今年度の検討により得られた抗S2抗体のスパイクタンパク質への結合親和性の増強に着目し,抗S2抗体と抗RBD抗体とのカクテル療法による感染阻害活性への影響についても合わせて検討を進めていく予定である.
今年度の研究では,抗S2抗体が武漢型シュードタイプウイルスにおいて,中和活性を示すことを見出した.この研究では,すでに所有している試薬を使用して主に実験を施行したため,残額が生じた.残額分に関しては,本年度予算としてBiacoreによる分子間相互作用解析を行うにあたっての消耗品等を購入する予定である.
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International Journal of Molecular Sciences
巻: 24 ページ: -
10.3390/ijms24010020
巻: 23 ページ: -
10.3390/ijms232415834