研究課題/領域番号 |
22K15284
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山本 雄一朗 東京理科大学, 薬学部薬学科, 助教 (00907412)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | SARS-CoV-2 / スパイクタンパク質 / S2 subunit / 中和抗体 |
研究実績の概要 |
昨年度までの成果として,本研究申請時点で樹立していた抗RBD抗体CvMab-6,抗S2抗体CvMab-62の武漢型及び変異型シュードタイプウイルスに対する中和活性と3量体スパイクタンパク質への結合親和性を評価し,CvMab-62が武漢型シュードタイプウイルスにおいてCvMab-6よりも中和活性が高いこと,武漢株およびオミクロン株3量体スパイクタンパク質との結合親和性が高いことを明らかにした.本年度は,CvMab-62のSARS-CoV-2に対する感染阻害活性を評価し,起源株に対して高濃度であるが中和活性が認められた.さらに,CvMab-62のスパイクタンパク質への結合親和性に着目し,抗S2抗体を基本とした抗体カクテルの中和活性を評価した.その結果,構成抗体単独と比較して中和活性の向上は認められなかった.CvMab-62のエピトープを同定するために,S2領域における部分欠失変異体を作製し,CvMab-62による結合力をウェスタンブロット法にて解析したところ,ステムヘリックス領域よりも上流のサブドメイン3領域内(residues; 1123-1148)がCvMab-62のエピトープ部位であることが示された.詳細な解析により,多くの抗S2抗体の共通エピトープ残基1149-1162位には結合しないことが示された.これらの結果より,CvMab-62のエピトープ部位が新規であることが考えられる.表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて,CvMab-62とBA.4/5,BQ.1.1の3量体スパイクタンパク質細胞外ドメイン間の結合強度をpH7.4,pH5.5の条件下で評価した.その結果,CvMab-62 は2つの条件下において強力で安定した結合能を示した.つまり,CvMab-62がエンドソーム内環境下においても,抗原抗体相互作用を維持することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S2領域を新規エピトープに持つSARS-CoV-2中和抗体に着目し,その抗体によるスパイクタンパク質の認識機構を詳細に解析し,感染阻害活性の発現メカニズムを明らかにすることが本研究の目的である.本年度は,CvMab-62のSARS-CoV-2における中和活性を評価し,高濃度であるが中和活性があることを明らかにした.さらに,エピトープ解析では,これまでの抗S2抗体で報告されているエピトープ部位には結合しないことが示され,新規のエピトープであることを明らかにした.SPR解析により,CvMab-62がBA.4/5,BQ.1.1のスパイクタンパク質細胞外ドメインとの間で安定した結合能を示した.興味深いことに,エンドソームのような酸性環境下でも高い結合能を維持することを明らかにした.したがって,抗S2抗体によるスパイクタンパク質の認識機構の解析は予定通り進捗しているものと考えられ,本研究はおおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
CvMab-62のSARS-CoV-2スパイクタンパク質への結合能と感染阻害活性の関連については現時点で不明である.したがって,CvMab-62の結合がプロテアーゼによるスパイクタンパク質の切断に与える影響を生化学的に解析し,阻害する感染過程を同定する.本年度,CvMab-62のエピトープ部位を同定したが連続したアミノ酸からなる一次構造としてのリニアエピトープであるため,X線結晶構造解析により,CvMab-62とエピトープとの結合様式を立体構造学的に解析する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
SARS-CoV-2ウイルス実験自体はBSL3で扱うものであるため,国立感染症研究所の施設を使用し実験を施行した.試薬等の削減につながり,残額が生じた.計画自体は予定通り進捗しているので,次年度の計画に変更の必要性はない.残額は次年度(令和6年度),X線結晶構造解析に必要な新規S2エピトープペプチドの購入等に使用する予定である.
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