研究課題
行動嗜癖は依存症の一種であり、社会生活に悪影響を及ぼすにも関わらず、インターネットやゲーム、ギャンブルなど特定の行動にのめり込んでしまう状態を指す。特に、ネット・ゲーム使用障害者数は、世界では人口の0.3-26%、日本では420万人と推計され、コロナ禍による増加も報告されるなど、大きな社会問題となっている。しかし、行動嗜癖の治療薬は存在せず、治療法も確立していない。したがって、それらの開発につながる神経回路・受容体レベルでの病態メカニズムの解明が重要であるが、そのような行動嗜癖の神経基盤に関する基礎研究はほとんど存在しない。一方、マウスはエサなどの報酬がなくてもランニングホイールを執拗に回転させることが知られ、ランニングホイールへの長期間の曝露により、薬物依存症モデル動物で観察されるような神経可塑的変化や、行動嗜癖の臨床像と類似した離脱症状が生じるなど、マウスのランニングホイール回転行動は依存症の一面を持ち、行動嗜癖を評価する実験系としての妥当性を備えていると考えられる。本研究の目的は、1. ランニングホイール回転行動への「異常な欲求」の体系的な評価により行動嗜癖モデルマウスを選別できる実験系を構築し、2. 行動嗜癖の病態メカニズムを5-HTによる脳内報酬系の神経活動調節に着目して、神経回路・受容体レベルで解明することである。本年度は、新規行動実験系の確立および行動嗜癖モデルマウスの選別方法、側坐核の神経活動変化について検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、当初の計画通り、ランニングホイール回転行動への欲求を定量可能である行動課題を利用した新規実験系を構築し、この課題により、一定数の行動嗜癖モデルマウスを選別できることを明らかにした。また、ファイバーフォトメトリー法により、ランニングホイール回転行動への欲求が発現する際の側坐核における神経活動変化を捉えることもできている。現在、上記のモデルマウスを用い、行動嗜癖形成における5-HT受容体の関与について検討を進めているところである。したがって、概ね順調に進展していると判断した。
今年度の結果から、新規に構築した行動実験系により、行動嗜癖モデルマウスの選別が可能であることが明らかとなった。また、予備検討からランニングホイール回転行動に対する欲求にはセロトニン受容体を介した神経伝達の関与が示唆されていることから、上記のモデルマウスにおいてセロトニン神経系を光遺伝学的に活性化あるいは抑制した際の欲求の変化について検討を進める予定である。また、同時に、行動課題中の5-HT神経活動および側坐核における5-HT遊離変化についても検討を進める予定である。
当初購入予定であった消耗品について、納期未定となったため、年度内に購入することができなかった。次年度に代替品を購入し、使用する予定である。
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Behavioural Brain Research
巻: 432 ページ: 113981
10.1016/j.bbr.2022.113981.
Nature Communications
巻: 13 ページ: 7708
10.1038/s41467-022-35346-7.