研究課題/領域番号 |
22K15306
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
井口 巴樹 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (90847120)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ステロイド配糖体 / トリテルペン配糖体 / 天然物 / アポトーシス / 小細胞肺がん |
研究実績の概要 |
本研究は、既存の治療薬が効かないがんや再発がんなど、治療薬の選択肢が十分でないがん治療の課題解決を志向している。申請者が見出した植物由来の新規サポニン(トリテルペン配糖体、ステロイド配糖体)が、SBC-3ヒト小細胞肺がん細胞に対して強力な細胞毒性を示すとともに、それらが非内因性経路を介してSBC-3細胞をアポトーシスに誘導していることが示唆された。非内因性経路を介して腫瘍細胞をアポトーシスに誘導するがん治療薬は少ない。申請者が研究を進める過程で、新規サポニンが既存のがん治療薬とは異なる作用メカニズムを有している可能性が示唆された。そのため、非内因性経路を介してアポトーシスを誘導するメカニズムを詳細に解明することは、新規がん治療薬シーズ創出に向けて学術的に非常に大きな意義があると考え、本研究に着手した。ナデシコ科Saponaria officinalis種子から単離された新規トリテルペン配糖体、およびユリ科Agapanthus africanus地下部から単離された新規ステロイド配糖体について、SBC-3細胞に対するアポトーシス誘導活性を評価した。その結果、アポトーシスが誘導された細胞に特徴的な形態変化や非内因性経路にかかわるcaspase-8を含むcaspase類の活性化などが認められた。現在、より詳細なアポトーシス誘導メカニズムを明らかにすることを目的に新規サポニンで処理したSBC-3細胞について、トランスクリプトーム解析ならびにメタボローム解析を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S. officinalis種子から単離された新規トリテルペン配糖体およびA. africanus地下部から単離された新規ステロイド配糖体を用いてそれぞれSBC-3細胞を処理した。その結果、アポトーシス細胞に特徴的な核の断片化ならびに核クロマチンの凝集、Annexin Vおよびpropidium iodideの二重染色における初期および後期アポトーシス細胞の割合の増加、caspase-3、-8、-9の活性化、PARPの切断、ミトコンドリア膜電位の脱分極、および活性酸素種の産生増加が認められた。さらに、いずれの化合物もSBC-3細胞の細胞周期をG2/M期で停止させることが明らかとなった。非内因性経路を介したアポトーシス誘導にかかわるcaspase-8の活性化が認められたことから、いずれの化合物も非内因性経路を介してSBC-3細胞をアポトーシスに誘導していることが示唆された。また、上記の化合物でSBC-3細胞をそれぞれ処理した際のミトコンドリアの形態を観察したところ、未処理の場合と比較してミトコンドリアの周囲長が延長するとともに真円性が低下し、凹凸度の程度が増加していることが観察された。これは、シスプラチンでSBC-3細胞を処理した場合とは逆の傾向であることも明らかとなった。以上の結果より、いずれの化合物もミトコンドリア機能障害を伴ってSBC-3細胞をアポトーシスに誘導していることが明らかとなり、その作用メカニズムは既存のがん治療薬であるシスプラチンと一部異なることが示唆された。したがって、本研究課題の初年度の進捗としては概ね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、S. officinalis種子から単離された新規トリテルペン配糖体で処理したSBC-3細胞について、トランスクリプトーム解析とメタボローム解析を実施している。これらの結果をもとに、アポトーシス誘導に関与している各種因子やアポトーシス誘導に伴う細胞内代謝物の変化などについて検討していく予定である。具体的には、デスレセプターリガンドのFasL、TNF-α、TRAIL、TWEAKなどに着目し、ウエスタンブロット法、ELISA法、PCR法などにより評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度はアポトーシス誘導関連シグナルの検出に向けた条件検討に繰り返し取り組んだ。その条件検討には申請者が所属する教室において既に所持していた試薬や機器を使用したため、新たな物品の購入は当初の予定より少なかった。
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